スクラーゼに強い親和性、糖吸収を抑制する可能性
近畿大学は11月29日、天然甘味料であるメープルシロップ・メープルシュガーから、新しいオリゴ糖「メープルビオース」を発見したと発表した。これは、同大薬学部病態分子解析学研究室の多賀淳教授と山本哲志講師を中心とする研究グループによるもの。成果は、分子科学分野の学術誌「Internatuinal Journal of Molecular Sciences」に掲載されている。
画像はリリースより
研究グループは、株式会社メープルファームズジャパンとの共同研究のもと、北米産サトウカエデのメープルシロップ、メープルシュガー、加工前樹液の機能性について研究を行ってきた。サトウカエデ樹液の主な成分のうち糖質について分析を行ったところ、還元末端側にフルクトース残基を有するオリゴ糖がいくつか存在することを発見。さらに、フルクトース残基を解離させる「インベルターゼ」(スクラーゼ)という酵素を働かせた際に消失する糖鎖があることも判明した。
その糖鎖を調べると、これまでに報告のないオリゴ糖である可能性が高く、物理的な性質としてはスクラーゼに強い親和性を持ちながらも分解されにくい構造であることがわかったという。このような特徴は、糖の分解酵素を競合的に阻害できる、つまり、糖の吸収を抑制できる可能性があることを意味する。
動物実験で、微量のメープルビオースの同時摂取でショ糖の吸収を半分に抑制
研究グループは続いて、試験管内で種々の酵素阻害活性を調査。すると、少なくともインスクラーゼ、マルターゼ、イソマルターゼなどのα-グルコシダーゼ類を阻害することがわかった。また、2型糖尿病モデルラットを用いた動物実験で、スクロース(ショ糖)の負荷実験において、ショ糖に対して0.11%のメープルビオースをラットに同時摂取させたところ、ショ糖だけを摂取した場合のおよそ半分にまで血糖値の上昇を抑えるという結果を得た。
医療用の糖吸収阻害剤や糖吸収を緩やかにすることが期待される健康食品、機能性表示食品はすでに存在するが、これらの多くはマルターゼやイソマルターゼを阻害し、穀物のデンプンなどグルコースの多糖やオリゴ糖の分解を抑えることで血糖値上昇を抑制する。それに対し今回発見されたメープルビオースは、砂糖の主成分であるショ糖の分解酵素であるスクラーゼの阻害活性が強いことが特徴と考えられる。
近年、糖尿病などの生活習慣病では「予防」の重要性が注目されており、アンチエイジングやダイエットのために糖質制限を行う人が増加。糖吸収を抑える天然成分や食品が期待を集めている。メープルシロップの成分であるメープルビオースは、特に高濃度で使用しなければ副作用の心配が小さい素材であると考えられる。「糖質制限が必要な人たち向けに、砂糖の甘さを感じながら糖吸収を抑えるスイーツなどの開発も期待される。おいしく食べて成人病予防ができるよう、メープルビオースの製造方法の効率化についても研究を進めていきたい」と、研究グループは述べている。
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