■厚労省が調査結果
被験者は、同剤の第I相試験に参加し、1日当たりの最高用量を10日間反復投与され、投与中は軽度~中度の眠気や浮動性めまいなどが見られたものの、それ以外は特段の異常を訴えずに退院した。
その後、退院当日に被験者が自主的に再来院し、幻視や幻聴を訴えたが、治験責任医師は受け答えがはっきりしており、容態が安定していたことなどから、経過観察を決定した。
しかし、翌朝に被験者が電柱に登り、飛び降りて死亡したことが警察から報告された。厚労省は「自殺意図があったかどうかは不明」としている。
調査結果では、治験を実施した医療機関では、緊急時に適切な医療を提供するための措置を取っていたほか、治験依頼者のエーザイは治験責任医師に中枢神経系の第I相試験の治験実績があることを考慮していたことから、「医療機関、治験依頼者にGCP省令から重大な逸脱は認められなかった」と結論づけた。
一方、被験者に精神科の既往歴はなく、同剤の投与開始前に自殺リスクが見られなかったこと、投与終了2日後から幻聴や幻視、自殺願望の発現が確認されたことなどから、「同剤と異常行動の因果関係は否定できない」とした。それでも厚労省は「確実に薬剤が原因とは断定できない」との見解を示した。
今回の死亡事例発生を踏まえ、厚労省は、開発初期の治験実施時に行うべきことを留意事項としてまとめた文書を、製薬企業と医療機関に可能な限り早期に発出する考えも示した。
製薬企業に対して、被験薬のリスクに応じ対応できる治験実施医療機関、治験責任医師を選ぶほか、中枢神経症状が発現する薬剤の治験では、有害事象を診断できる医療機関での実施や保護者の関与を検討することなどを求める。医療機関には、重大な転帰につながる可能性がある事象が発現した場合、臨床経験のある専門医の意見を参照するなど適切な連絡体制の整備を求める。
調査結果の公表を受け、エーザイは「報告を真摯に受け止め、臨床試験実施に当たって安全対策強化を進める。特に最初の臨床試験では、施設の体制確認における被験者のさらなる安全性確保に向けた対策を講じる」とのコメントを発表した。