細胞を心臓表面に直接投与する「細胞スプレー法」を開発
大阪大学医学部附属病院は11月27日、細胞を心臓表面に直接投与する「細胞スプレー法」を開発し、同技術を応用した製品「ADR-002K」の医師主導第1相試験を、2019年11月から阪大病院で開始したことを発表した。この研究は、同大病院心臓血管外科の澤芳樹教授らの研究グループによるもの。同技術について、米国科学誌「Transplantation」に掲載された。
画像はリリースより
心疾患は、悪性新生物に次いで日本人の死因第2位だ(2017年人口動態統計(確定数)より)。中でも重症心不全は、根治的治療法が確立されておらず、新たな治療法の確立が急務となっている。これまで、重症心不全治療のために、さまざまな体性幹細胞が経冠動脈的に、または心筋内腔・外膜から針で心臓に投与されてきたが、有害事象の懸念や有効性に課題があった。その課題を克服するために、筋芽細胞を用いた細胞シート法が開発された。細胞シート法は、すでに臨床において一定の効果をあげているが、作成に細胞加工施設(CPC)を必要とするため、CPCを有しない医療機関への普及には課題がある。
ヒト(同種)脂肪組織由来間葉系幹細胞製剤と生体組織接着剤等によるコンビネーション製品「ADR-002K」
研究グループは、ロート製薬株式会社と2016年に共同研究講座(先進幹細胞治療学共同研究講座)を設立。共同研究によって、均質性と品質を担保した同種脂肪組織由来間葉系幹細胞を利用して、用時調製可能で簡便な投与技術の開発に成功した。同技術にはCPCが必要ないことから、日本全国の医療機関に普及可能な再生医療技術であると考えられる。
ADR-002Kは、細胞スプレー法を応用した、ヒト(同種)脂肪組織由来間葉系幹細胞製剤(ADR-002)を主構成体、生体組織接着剤等を副構成体とするコンビネーション製品。今回、開始が発表された試験は、冠動脈バイパス手術を施行する虚血性心筋症患者を対象にADR-002Kの安全性、ガドリニウム遅延強調領域の変化量の確認および実施可能性について検討を行う目的で実施される。目標症例数は、6例(被験製品投与群:3例、対照製品投与群:3例)だ。実施期間は、2019年11月1日~2021年10月31日を予定している。
細胞スプレー法が一般的な治療法として確立されると、多くの虚血性心筋症患者の心機能の回復および予後改善に大きく貢献することが期待される、と研究グループは述べている。
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