視神経と脊髄に強い炎症が起こり、失明、四肢麻痺などの症状が現れる自己免疫疾患
国立精神・神経医療研究センター(NCNP)は11月28日、抗IL-6受容体抗体サトラリズマブの視神経脊髄炎スペクトラム(NMOSD)対象第3相国際共同治験(中外製薬株式会社の企業治験)の結果、ベースライン治療にサトラリズマブを上乗せ投与することで、治験開始後最初の再発が起こるまでの期間が有意に延長することが確認されたと発表した。同試験は、同センター山村隆特任研究部長らの研究グループが、フランス、ドイツ、イタリア、ポーランド、ハンガリー、イギリス、スペイン、台湾、アメリカ、日本などの研究機関と共同に行ったもの。研究成果は、米国の科学誌「The New England Journal of Medicine (NEJM)」電子版に掲載された。
視神経脊髄炎(NMO)およびNMOSDは視神経と脊髄に強い炎症が起こり、失明、視野欠損、四肢麻痺、感覚異常、痛みなどの症状が現れる自己免疫疾患。抗アクアポリン4抗体(AQP4抗体)陽性の症例(NMOの原型)では、アストロサイト障害に伴う髄液GFAP上昇など多発性硬化症とは明確に異なる特徴を示す。一方、AQP4抗体陰性であっても臨床症状やMRI所見が多発性硬化症ではなく、NMOに近似している場合は、抗体陽性例とひとくくりにしても問題はないという考えが主張され、2015年より、抗体陽性と陰性例を含めて視神経脊髄炎スペクトラム(NMOSD)とまとめられるようになった。しかし、抗体陰性例には、アストロサイト障害の軽微な例も含まれ、NMOSDという概念はかなりプラクティカルな判断によって決められた概念であることは否定できない。また、急性期にはステロイドパルス治療や血液浄化療法を実施するが十分に回復しない場合もあり、新たな治療法の開発が期待されている。
同センターでは、先行研究より、インターロイキン−6(IL-6)がアクアポリン4抗体陽性のNMOの病態に密接に関わることを示している。IL-6阻害療法の有用性に関するパイロット試験をNCNP病院で実施し、IL-6阻害療法の実用化に対する期待が高まっていた。
ベースライン治療にサトラリズマブを上乗せ投与した際の有効性・安全性を検証
今回の試験は、NMOSD(抗抗アクアポリン4抗体陽性および陰性を含む)を対象として、ベースライン治療(アザチオプリン、ミコフェノール酸モフェチルもしくは経口ステロイドの単剤/併用療法)にサトラリズマブを上乗せ投与した際の有効性および安全性を二重盲検プラセボ対照試験で評価した第3相試験。国内外の13~73歳の男女83例について、治験計画書に規定された再発が二重盲検期間に最初に起こるまでの期間を主要評価項目とした。
患者はサトラリズマブまたはプラセボのいずれかに1:1の割合で無作為に割り付けられ、ベースライン治療に加え、サトラリズマブ(120mg)またはプラセボを0、2および4週目、その後は4週間隔で皮下に投与した。二重盲検期間は、再発の総数が26件に達した段階で終了し、二重盲検期間終了後は非盲検継続投与期間に移行し、両群ともサトラリズマブにより治療を継続した。
サトラリズマブ上乗せ投与群、無再発は治療開始48週で88.9%、96週で77.6%
同試験の結果、総数83例のうちサトラリズマブを上乗せ投与した41名では8名(19.5%)、プラセボ群42名では18名(42.9%)で再発が認められた(ハザード比:0.38、95%信頼区間:0.16~0.88、p=0.018[層別log-rank検定])。Multiple imputationにより打ち切りを補完した解析でも同様の結果が確認された。サトラリズマブ上乗せ投与群の患者は、治療開始48週、96週の時点でそれぞれ88.9%、77.6%が無再発だったが、プラセボ上乗せ投与群の患者における無再発率は、それぞれ66%、58.7%だった。
抗アクアポリン4抗体陽性と陰性症例を比較するサブ解析の結果では、抗体陽性例において、サトラリズマブ群27名中3名(11.1%)、プラセボ群28名中12名(42.9%)で再発が認められた(ハザード比:0.21、95%信頼区間:0.06~0.75)。抗体陰性例では、サトラリズマブ群14名のうち5名(42.9%)、プラセボ群14名のうち6名(35.7%)で再発が認められた(ハザード比:0.66、95%信頼区間:0.20~2.24)。サトラリズマブは、約2年間の治療期間(平均値)を通じて良好な忍容性を示した。重篤な有害事象の発現率はサトラリズマブ群とプラセボ群で同様であり、サトラリズマブ群の主な有害事象は上部気道感染、鼻咽頭炎(感冒)および頭痛だった。
同試験の結果、サトラリズマブがプラセボとの比較で、NMOSDの再発を有意に抑制することが確認された。NMOSDは、1回の再発で高度の障害を来す場合があり、同剤はNMOSDの再発リスクを減らす新たな治療薬として、患者の機能的予後の改善にも貢献することが期待される。