食品成分でmRNAの成熟過程を調節する化合物を探索
名古屋市立大学は11月28日、フラボノイドに属するアピゲニンとルテオリンが効果的にスプライシングを調節することを発見したと発表した。この研究は、名古屋市立大学と京都大学に所属の倉田雅志研究員、および、京都大学大学院生命科学研究科 増田誠司准教授、名古屋市立大学大学院医学研究科 渋谷恭之教授らの研究グループによるもの。研究成果は、米国の国際学術誌「iScience」のオンライン版に掲載された。
画像はリリースより
昨今、ポリフェノールやカテキンなど、日頃から摂取する食物由来化合物に抗がん作用があることがわかってきており、これらの摂取が予防に結びつく可能性が考えられている。しかし、食品由来化合物は薬剤と異なり、効果に高い濃度が必要ということもあって、単一の指標での解析に留まっていた。一方、抗がん剤の創薬ターゲットとしてmRNAの成熟過程(キャッピング、スプライシング、ポリアデニル化の総称)が注目されている。そのうち、スプライシングを阻害する「H3B-8800」は、副作用が少ないことが期待される化合物であり、臨床試験も実施されている。
そこで研究グループは、mRNAの成熟過程を標的とした探索系を構築し、食品成分よりmRNAの成熟過程を調節する化合物の探索を開始した。
正常細胞に比べ、がん細胞の増殖をより阻害していることも判明
研究グループは、mRNAの核内でのmRNA成熟過程が阻害されると輸送されず、核内に留まるという性質を利用して、食品成分からmRNAの成熟過程を阻害する化合物を探索。その結果、パセリやセロリに多く含まれる、アピゲニンとルテオリンというフラボノイドの属する化合物について、mRNA成熟過程を阻害する活性を見出した。
次に、アピゲニンとルテオリンの細胞中での働き方について調べたところ、スプライシングを行うスプライソソームの中のSF3B1という因子に結合し、さまざまな mRNA のスプライシングパターン(選択的スプライシング)を変えていることがわかった。これは、食品成分として初めての知見だという。また、正常細胞よりもがん細胞に対し、より増殖を阻害することもわかった。これまで、マウスに移植したがん細胞の増殖をアピゲニンやルテオリンで抑制できることが知られていたが、今回の発見は、これらフラボノイドが、がん細胞の増殖を抑制可能であるという根拠になる成果といえる。
研究グループは、「効果は微生物が産生する阻害剤に比べると弱いが、定期的に摂取することで発がん予防に利用できるのではないかと期待している。このような化合物を含む食品の摂取によってがんの予防が可能かどうかについては、今後の研究が必要だ」と、述べている。
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