神経変性疾患の発症に関与の「小胞体ストレス」、診断法の確立が課題
広島大学は11月28日、不良タンパク質が小胞体内に蓄積することによって生じる「小胞体ストレス」のマーカーとなる新たな物質を見出したと発表した。この研究は、同大大学院医系科学研究科ストレス分子動態学の齋藤敦准教授、同分子細胞情報学の松久幸司助教、今泉和則教授らを中心とした研究グループによるもの。研究成果は、「The FASEB Journal」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
細胞は小胞体で新たに合成されたタンパク質を正確に折りたたみ、タンパク質に正常な機能を付与している。一方で細胞が虚血やウイルス感染などに曝されると誤った折りたたみがなされ、不良タンパク質として小胞体内に蓄積してしまう。その結果、小胞体の機能が障害され、このような状態を小胞体ストレスと呼ぶ。小胞体ストレスはアルツハイマー病をはじめとする神経変性疾患でも生じており、それら疾患の発症や病態の形成と密接に関わると言われている。その他、糖尿病、肥満、がん、骨軟骨疾患にも関わり、病気を引き起こす重要な要因として注目されている。
生体内における小胞体ストレスの発生を検出することが出来れば、小胞体ストレスが関わる疾患を早期に診断することが可能と考えられる。しかしながら現状では生体内での小胞体ストレスの有無を診断する方法が確立されておらず、新たな診断技術の開発が望まれている。また小胞体ストレスの発生から神経細胞死へと至る詳細な分子メカニズムは不明であり、これらをつなぐ物質の同定が小胞体ストレス関連疾患の発症機序解明における課題の1つとなっている。
小胞体ストレスで産生の「BSPフラグメント」、Aβと同様の線維構造を形成
細胞には小胞体ストレスを感知するセンサータンパク質が複数存在している。センサータンパク質の1つであるBBF2H7は小胞体ストレスを感知すると2段階の切断を受けて活性化し、小胞体ストレスに対処するためのシグナルを発信する。今回研究グループは、BBF2H7 が切断を受けて活性化する際に2か所の切断部位で挟まれたアミノ酸45個からなる小ペプチド(BBF2H7-derived small peptide fragment:BSPフラグメント)が産生されることを見出した。解析の結果、BSPフラグメントは凝集性が非常に高く、アルツハイマー病の原因物質であるアミロイドβタンパクが形成するアミロイド線維に類似した線維状の構造を形成することがわかった。
小胞体ストレスの発生に伴い産生されるBSPフラグメントは、小胞体ストレスを検出するマーカー分子として利用できる可能性がある。例えば、BSPフラグメントは小胞体ストレスが関わる神経変性疾患の早期診断に応用できる。実用化に向けて、今後は疾患発症のどの段階でBSPフラグメントが産生され、どの場所に蓄積するのか調べる必要がある。またアミロイドβタンパクが凝集することで神経毒性を発揮するのと同様に、凝集したBSPフラグメントが神経細胞に傷害を与えることで疾患発症に至る可能性がある。BSPフラグメントの産生や凝集、毒性を抑えると神経変性疾患の病態が改善するかを調べることで新たな疾患発症メカニズムの解明と画期的治療法の開発へとつながることも期待できる。
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・広島大学 プレスリリース