医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 受精卵の発育、中性脂肪を蓄えた細胞内「脂肪滴」の量により左右される-量研

受精卵の発育、中性脂肪を蓄えた細胞内「脂肪滴」の量により左右される-量研

読了時間:約 2分19秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2019年11月28日 AM11:30

脂肪滴の量がヒトと同程度のマウスの卵子を用いて検証

量子科学技術研究開発機構は11月26日、マウスの卵子を用いて、胚の発育には適量の脂肪滴が必要であることを明らかにしたと発表した。これは、同機構の量子医学・医療部門 放射線医学総合研究所 生物研究推進室の塚本智史主幹研究員と相澤竜太郎研究員らの研究グループによるもの。研究成果は、英国科学雑誌「Development」のオンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

哺乳動物の卵子には、脂肪滴と呼ばれる中性脂肪を蓄えた細胞内小器官の一種が存在する。脂肪滴の量は、ブタやウシの卵子で多量、ヒトやマウスの卵子ではごく少量だ。脂肪滴はトリアシルグリセロールなどの中性脂肪を内部に含み、その周囲をリン脂質の一重膜が取り囲んだ構造体。脂肪滴はほぼ全ての細胞や組織に観察され、その量や大きさはさまざまだ。

研究チームは以前に、卵子や受精卵における脂肪滴の役割を調べるため、受精直後に活発に起こるオートファジーによって脂肪滴を分解する方法を開発し、マウスの受精卵の脂肪含量を半減させることに成功していた。その結果、着床する時期まで発育する受精卵の割合が半分になることがわかったが、開発した方法では、脂肪滴を完全に分解することはできなかった。そこで今回研究チームは、脂肪滴を分解するのではなく、人工的に取り除く技術を開発することで、脂肪滴が全く含まれない卵子を用いて、より正確に脂肪滴と胚発育との関係性を調べることとした。

脂肪滴の欠損で受精卵の発育は止まり、過剰な量では発育割合が半減

ブタやウシの卵子や受精卵を遠心すると脂肪滴が除去できることをヒントに、マウスの卵子においても同様に遠心によって除去できる方法はないかを検討。その結果、マウスの卵子から生きたまま脂肪滴を単離する技術を開発した。この方法を用いて脂肪滴を取り除いた卵子を体外受精したところ、正常に受精し、着床する時期の状態の胚(胚盤胞)まで体外で発育。また、興味深いことに、脂肪滴を取り除いた直後から、卵子内に新たな脂肪滴が合成されることを発見した。

この新たな脂肪滴は脂肪酸から合成されると推測し、この合成経路に関わる脂質合成酵素の1つ「ACSL3」の働きを阻害する、「」と呼ばれる化合物を添加した培地で、脂肪滴を欠損させた卵子の受精卵を培養した。その結果、新たな脂肪滴の合成は阻害され、トリアクシンCによって脂肪滴が完全に欠損した受精卵の全てが、4細胞以降には発育せずに死んでいた。

また、脂肪滴を含む通常の卵子を受精させた後に、今回開発した手法で取り除いた脂肪滴を移植し、脂肪滴を過剰に含む受精卵を作製し培養した。その結果、時間の経過とともに脂肪滴が分解され、脂肪滴の量が通常の受精卵と同程度となり、着床する時期の状態の胚(胚盤胞)まで発育。しかし、脂肪滴を移植した受精卵を、脂肪滴の消化酵素(リパーゼ)を阻害する化学物質を添加した培地で培養すると、移植した脂肪滴が残存し、着床する時期の状態の胚(胚盤胞)まで発育する割合は半分になった。これらのことから、受精卵内部では余分な脂肪滴は積極的に分解されて、適切な脂肪滴量になるように調節されると考えられる。

脂肪滴の働きは、肥満や糖尿病、高血圧といった生活習慣病のリスク因子とも関連することが近年の研究で明らかになってきた。卵子に含まれる脂肪滴の量もこのようなリスク因子によって影響を受け、卵子の質低下につながると考えられる。本研究で開発した脂肪を単離する技術を応用して、脂肪滴の量と卵子の質や不妊との関連性を明らかにすることにより、生命科学研究に欠かせないモデルマウスの開発促進や維持に役立つだけでなく、ヒトにおける卵子や受精卵の質の科学的な評価法の開発などにつながることが期待される。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 前立腺がん、治療決定時SDMが患者の治療後「後悔」低減に関連-北大
  • 糖尿病管理に有効な「唾液グリコアルブミン検査法」を確立-東大病院ほか
  • 3年後の牛乳アレルギー耐性獲得率を予測するモデルを開発-成育医療センター
  • 小児急性リンパ性白血病の標準治療確立、臨床試験で最高水準の生存率-東大ほか
  • HPSの人はストレスを感じやすいが、周囲と「協調」して仕事ができると判明-阪大