舌の発生におけるShhシグナル伝達の役割を検討
東京医科歯科大学は11月27日、舌の形態・運動異常に、発生期のShhシグナル伝達の低下が関与していることをつきとめたと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科分子発生学分野の井関祥子教授らの研究グループが、国立遺伝学研究所および英国のKing’s College Londonと共同で行ったもの。研究成果は、国際科学誌Developmentのオンライン版に公開されている。
画像はリリースより
舌は味覚、摂食・咀嚼・嚥下、構音に関わる多機能な器官。表面には味覚を担う味蕾があり、中は舌の運動を担う舌筋が舌中隔や舌腱膜と名付けられた腱と結合して整然と配列している。舌の正しい運動によって飲食にかかわる機能や、意図した音声を発するための機能が達成されており、舌の形が不整であったり、うまく動かせなかったりした場合、舌の運動によってもたらされるはずの機能が発揮し難い場合がある。しかしその原因は、これまで明らかになっていなかった。また、舌の発生は、これまで味覚を司る味蕾については多くの研究成果が報告されているものの、舌の中、つまり舌筋がどのように舌の中を充たしてゆくのかについては明らかになっていなかった。
そこで研究グループは、舌の任意の発生段階でShhシグナル伝達を欠失させることができるマウス、舌の発生初期段階から減少しているマウス、さらに、特定の細胞群でのみShhシグナル伝達が起きないマウスを組み合わせて解析することで、Shhシグナル伝達が舌の発生においてどのような役割を果たすかを検討した。
舌の形態・運動異常の原因は、内舌筋の腱の発生異常によることが判明
まず、舌発生期にShhシグナル伝達を減少、ないし欠失させた種々の遺伝子組換えマウスで、発生中および発生完了時の舌の形態を組織学的に観察。最初に、舌発生初期にあたる胎齢11.0日からShhシグナル伝達が減少するマウスで検討した。結果、このマウスでは、下顎や舌原基(将来の舌の原型となる器官)の大きさに大きな影響はなかったが、舌の中の筋(内舌筋)の配置が乱れ、腱も未発達だった。次に、遺伝子組換えと薬剤投与の組み合わせで胎齢10.5、11.5もしくは12.5日からShhシグナル伝達を欠失させたマウスで検討。結果、10.5日から欠失させた胚では、下顎と舌の両方が著しく小さくなり、11.5日からの欠失では下顎の大きさはほぼ正常だったが、舌は10.5日のときほどではないものの小さい傾向を示した。また、内舌筋の配置が乱れ、腱も未発達だった。12.5日からの欠失では、下顎や舌にはほぼ影響がなかった。つまり、マウス胎齢10.5日のShhシグナル伝達は主に下顎と舌原基の成長に、11.5日では主に内舌筋の配置と腱の形成に必要であること、Shhシグナルがこれらの発生事象に必要な期間は12.5日までであることが明らかになった。
次に研究グループは、内舌筋の配置が乱れる原因を探索。筋肉は一般に腱を介して、主に骨などの他の器官や周囲の組織に連結されて配置や運動が決定されており、腱が正しく存在しないと筋肉の位置や走向がずれてしまう。また、舌では、内舌筋の腱は頭部神経堤細胞に由来し、内舌筋自体は中胚葉に由来する。そこで、将来腱になる頭部神経堤細胞にだけShhシグナル伝達が伝わらないようにしたところ、腱は未発達で筋の配置が乱れた。一方、将来筋になる中胚葉に由来する細胞にShhシグナルが伝わらないようにしても、腱の未発達や筋の配置の乱れは起こらなかった。つまり、Shhシグナル伝達は頭部神経堤細胞に直接伝わって腱になるよう命令していること、そうしてできた腱を頼りに内舌筋が配置されてゆくことが明らかになった。
研究グループは、今回の研究成果について、「哺乳類の舌の発生過程を明らかにしたのみならず、ヒトで生まれつき舌の形や動きに不具合がある場合の原因を明らかにする手がかりとなるもので、学術的・社会的に意義のある成果と言える」と、述べている。
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