皮膚筋炎はひとくくりではなく、自己抗体ごとで病態に違い
筑波大学は11月22日、膠原病の1つである「皮膚筋炎」の病態を、指の皮疹から予測できること証明したと発表した。これは、同大医学医療系臨床医学域皮膚科の沖山奈緒子講師らと、横浜市立大学、金沢大学、中京病院、東京女子医科大学、東京医科歯科大学との多施設共同研究によるもの。本研究の成果は、「JAMA Dermatology」に掲載されている。
画像はリリースより
皮膚筋炎は筋肉に炎症を生じ、力が入らなくなったり、紅斑などの皮膚症状が現れる疾患。皮疹が診断の重要なウエイトを占めるため、湿疹や乾癬などの一般的な疾患と誤診されやすいという課題がある。近年、いくつかの特異的自己抗体が同定され、抗体ごとに、皮膚症状・筋炎・間質性肺炎・がんの合併率といった臨床像の特徴が、サブグループに分類されることがわかってきた。慢性進行性間質性肺炎や関節炎が問題となる「抗ARS抗体陽性例」、致死的な急速進行性間質性肺炎を伴う「抗MDA5抗体陽性例」、高齢者の場合に内臓悪性腫瘍を高率で合併する「抗TIF1γ抗体陽性例」が、主なサブグループとして挙げられるが、その病態については詳しくわかっていない。
特異的な皮膚症状としては、上眼瞼の浮腫性紅斑であるヘリオトロープ疹や、指関節背側のゴットロン丘疹・徴候があり、皮膚筋炎の診断基準にも含まれている。これ以外にもさまざまな皮膚症状を呈し、筋炎特異的自己抗体別にも皮膚症状の特徴がある。抗ARS抗体陽性例では、「機械工の手」と呼ばれる指側面の角化性病変が特異的。抗MDA5抗体陽性例では指関節屈側周囲の暗紅色斑を特徴とする。一方、抗TIF1γ抗体陽性例では、全体に皮膚症状が重症で、時にびらんを伴い、ヘリオトロープ疹やゴットロン丘疹・徴候以外にもVネック徴候、ショール徴候、鞭打ち様紅斑が広範囲に認められる。皮膚生検病理組織像では、上述のような筋炎特異的抗体別の解析はこれまで行われていなかった。そこで本研究では、これらの詳細な解析を試みた。
特定の3抗体群に有意な差、抗MDA5抗体陽性はI型インターフェロン標的療法が有望
研究グループの各附属病院皮膚科を2007年9月から2018年8月の間に受診し、皮膚筋炎と診断され、皮膚生検した中から、「抗ARS抗体陽性例」「抗MDA5抗体陽性例」「抗TIF1γ抗体陽性例」のいずれかに該当した74症例の検体を解析した。皮疹生検組織のHE(ヘマトキシリン・エオジン)染色標本では、代表的な皮膚炎病理像が存在するかどうかについて、その特徴の有無で判定し、4つのサブグループに分類。各グループは次の通り。
1)苔癬反応(interface dermatitis):空胞変性、個細胞壊死
2)乾癬様皮膚炎(psoriasiform dermatitis):表皮突起が延長した表皮肥厚、不全角化
3)湿疹反応(eczematous reaction):表皮海綿状態
4)血管傷害(vascular injury):真皮毛細血管壁への炎症細胞浸潤と出血像
その結果、苔癬反応は3つの群で半数以上の患者に認められたものの、乾癬様皮膚炎や湿疹反応は抗ARS抗体陽性群でのみ高頻度に認められた。また、血管傷害は、抗MDA5抗体群で有意に高頻度だった。抗ARS抗体陽性例では、苔癬反応として角化細胞の個細胞角化という所見が特徴で、これに加えてかぶれなどで見られる湿疹反応や、別の炎症性疾患である乾癬を示唆するような病理組織像が見られたことが、かさかさした皮疹を裏付けるものと推測される。一方、抗MDA5抗体陽性例の皮疹では、微小血管傷害が強く見られることから、暗紅色で潰瘍化する皮疹となると考えられる。また、抗TIF1γ抗体陽性例では、苔癬反応の中でも角化細胞空胞変性が強く、びらん形成につながる所見だった。
さらに、I型インターフェロン反応性タンパクMxAを免疫組織染色し、表皮の染色面積についてIndex値をつけて評価したところ、明らかに抗MDA5抗体群では表皮全層が強く染色され、抗ARS抗体群ではほぼ染まらなかった。これは、近年開発されているI型インターフェロン標的療法は、抗MDA5抗体陽性例へは有望であるものの、皮膚筋炎の中でも大きな割合を占める抗ARS抗体陽性例に対しては期待が持てないことが予測される。研究グループは、「治療法開発において、このサブグループごとに丁寧な解析が必要」と、述べている。
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