■基礎研究力低下に警鐘-徳島文理大調査
岸本氏らは、17年度版全国薬学教員名簿から75薬系大学の全ての教授、准教授、講師3071人を抽出。このデータをもとに、生命科学論文などを無料検索できる「パブメド」の生物・医学系分野から各大学の17年度の論文数を集計し、講師以上の教員1人当たりの論文数を算出して各大学群間で比較した。
その結果、集計した17年度の論文数は計3830本で、内訳は国立大が33%、公立大が9%、旧私立大が43%、新設私立大が15%となった。講師以上の教員数は計3071人で、国立大が15%、公立大が5%、旧私立大が48%、新設私立大が32%となっていた。
詳しく解析した結果、旧私立大の教員1人当たり論文数が1.11だったのに対し、新設私立大の論文数は0.62で、研究生産性は半分程度であることが明らかになった。一方、国立大の論文数は2.76、公立大は2.43となり、私立大を大きく上回っていた。
国公立大と私立大で研究生産性が異なることは周知の事実となっているが、今回の調査からは、私立薬系大学の間でも格差があることが浮き彫りになった。
新設私立大のうち5大学を抽出し、経時的変化を解析したところでは、教員1人当たりの論文数は05年の0.98から、17年には0.64へと大きく減少していた。新設当初は旧私立大と同程度だった研究生産性が、時間の経過と共に低下したことが考えられた。
教員1人当たりの論文数について、多い順に薬系大学等を並べると、[1]東京大学[2]東北大学[3]大阪大学[4]京都大学[5]九州大学[6]北海道大学[7]熊本大学[8]富山大学和漢医薬学総合研究所[8]東京理科大学[10]岐阜薬科大学――となっていた。私立大では、東京理科大のみが唯一10位以内にランクインしているが、その他は全て国公立大が占めた。
岸本氏は、「新設私立大において05年から有意に研究生産性が低下しており、これが全体の停滞傾向に寄与していることが考えられる」と言及。
「設立時から6年制薬学教育を取り入れた新設私立大の増加は、臨床に強い薬剤師を養成する目的については一定の評価を得たものの、基礎研究力の低下を招きつつある」と懸念を示している。