肝星細胞の「脱活性化」に注目
東海大学は11月19日、肝硬変の前段階である肝線維症の治療に有効な分子として、転写因子「TCF21」を発見したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科マトリックス医学生物学センターの稲垣豊センター長(医学部医学科基盤診療学系先端医療科学教授)、中野泰博・元特定研究員(現・東京大学定量生命科学研究所特定研究員)らの研究グループによるもの。研究成果は、アメリカ肝臓病学会誌「Hepatology」に掲載された。
画像はリリースより
肝臓は、肝炎ウイルスの感染や過剰なアルコール摂取による炎症により線維化し(肝線維症)、肝硬変や肝がんに至る。日本では約50万人が肝硬変と診断されており、近年は、高カロリー・高脂肪食の摂取や運動不足などを原因とする非アルコール性脂肪肝炎による肝硬変や肝がん患者の増加が懸念されている。現在、肝硬変の前段階である肝線維症治療の候補薬剤の研究が進められているが、有効な治療薬の開発には至っていない。
肝線維症は、肝臓内のビタミンAの貯蔵や血流調節などの機能を持つ「肝星細胞」が炎症により活性化して筋線維芽細胞に変化し、コラーゲンをはじめとする線維成分を過剰に産生することで発症する。肝星細胞は、肝臓の炎症により筋線維芽細胞に変わるが、炎症が治まるとゆっくりと肝星細胞に戻る(脱活性化)ことが最近の研究でわかってきた。研究グループはこの肝星細胞の性質に注目し、脱活性化を誘導する分子の存在を予測。マウスの約2万5,000の遺伝子の中から胎児期における肝星細胞の成熟に重要な13遺伝子を選択して解析した。
肝硬変マウスの筋線維芽細胞にTCF21の発現誘導で、肝線維症の症状改善
研究グループは、解析の結果、正常な肝星細胞で強く発現し、筋線維芽細胞に変化した活性型の肝星細胞で発現が著しく低下する分子としてTCF21を見出した。肝硬変モデルマウスの筋線維芽細胞にTCF21の発現を誘導すると、活性型の状態から正常に近い肝星細胞への脱活性化が速やかに起こり、肝線維症の症状が顕著に改善したという。同様の効果は、非アルコール性脂肪肝炎のモデルマウスでも証明された。また、肝硬変を発症したヒトの活性型肝星細胞でもTCF21の発現が顕著に低下していたことから、臨床においてもTCF21発現誘導による治療の有効性が期待される。
研究グループでは、肝臓の他に、肺や腎臓、心臓などの線維症にもTCF21の発現異常が関わっていることを見出しており、複数の臓器の線維症に共通して働く治療候補物質の選定作業に着手している。
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・東海大学 プレスリリース