■ヘルスケア事業を加速
三菱ケミカルホールディングスは18日、連結子会社の田辺三菱製薬を完全子会社化すると発表した。田辺三菱の株式を公開買い付け(TOB)により取得する。買付価格は15日終値に53%のプレミアムを上乗せした2010円で、19日から来年1月7日までTOBを実施。買付総額は約4918億円に上る見込みだ。同社は、デジタル化や科学技術の急速な発展を予想。田辺三菱を完全子会社化することで、医薬品にとどまらず、予防から再生医療までをカバーするヘルスケア事業を総合力で加速できると判断した。これにより、田辺三菱は上場廃止となる予定。
三菱ケミカルHDは、機能商品、素材、ヘルスケアの事業ポートフォリオの構造改革を進めてきた。こうした中で今回、TOBによって保有する田辺三菱の株式割合を56.39%から100%に引き上げることで、医薬品とアプリ、ヘルスケアとデジタルの融合やマイクロバイオームを用いた予防医療など、HDの総合力を生かしてヘルスケア事業を大きく発展させることができる好機と判断した。
一方、田辺三菱は、免疫炎症領域を得意とするニッチな強みを持ち、中期的な成長ドライバーに筋萎縮性側索硬化症(ALS)治療薬「ラジカヴァ」、インフルエンザワクチン、パーキンソン病治療薬「ND0612」の後期パイプラインを擁するほか、長期的な成長に向けて遺伝子治療薬や核酸医薬、デジタルヘルス、再生医療などモダリティの多様化に取り組んでいる。
ただ、海外展開が足踏みしているほか、多発性硬化症治療薬「ジレニア」の導出先であるノバルティスからロイヤリティ収入の支払義務の存否に関する仲裁が提起され業績に大きな影響を与えていた厳しい環境の中、親会社の完全子会社化を受け入れた。
同日、都内で記者会見した三菱ケミカルHDの越智仁社長は、「30年に向けデジタル、科学技術が大きく変化すると考えており、今後のヘルスケア事業のあり方が大きく変わってくる。そうした面でHDと田辺三菱の持っている力を合わせ、しっかりとビジネスの成長を作り上げていきたい」と完全子会社化の狙いを説明した。
田辺三菱の三津家正之社長は「製薬企業として医薬ではなく、医療にどう貢献するかを考えてきた中で、今回の完全子会社化により、予防からや再生医療まで事業を拡大する一つの大きなステップになるのではないか」との考えを示した。
このタイミングで完全子会社化することについて、越智氏は「あらゆる業界でビジネスモデルの変化がすごい勢いで進みつつある。ヘルスケアビジネスも変えていくタイミングは今と考えた」と説明。
三津家氏も「時代の必然」と強調。「新薬一辺倒のビジネスでは立ち行かなくなる」と危機感を露わにし、HDのインフラと組み合わせたヘルスケア事業の発展に自信を示した。上場廃止となることについては「追い詰められての決断ではない」と強調し、「われわれのコアコンピテンシーを横展開できる」とシナジー効果の大きさを訴えた。
また、上場廃止後の組織体制と人員体制について、越智氏は「既に田辺三菱が進めている合理化策を大きく変化させることは考えていない」と人員削減を否定。「マネジメントシステムはこれまで通り」としつつ、事業発展へのM&Aなどの投資については「当然ある」と意欲を示した。