腎不全進展の詳細なメカニズムはまだ不明な点が多い
慶應義塾大学は11月15日、マウスを用いた実験により尿酸降下薬として用いられるフェブキソスタットが、腎尿細管細胞のATP再合成を促進することで、腎障害の進行を抑えることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学部内科学(腎・内・代)教室の藤井健太郎研究員、伊藤裕教授、内分泌時空医学寄附講座の宮下和季特任准教授、同医化学教室の久保亜紀子助教らの共同研究グループによるもの。研究成果は、「JCI Insight」に公開されている。
画像はリリースより
腎臓は細胞のエネルギー源であるATPを用いて、体に必要な電解質や水分を尿から再吸収し、体内環境を一定に保つ役割を果たす。糖尿病や腎炎により、腎不全が進行して腎臓の働きが低下すると、生涯にわたる透析療法が必要となる。近年、世界中で透析患者の増加が続くことから、腎不全の進行を抑える新しい治療法の開発が、内科学における喫緊の課題とされている。現在、一過性の腎血流低下による急性腎不全(AKI)を反復すると、腎臓の働きが永続的に低下する慢性腎臓病(CKD)へと移行することが注目されているが、腎不全進展のメカニズムは不明な点が多く、CKDの原因に則した治療法の開発は進んでいない。
フェブキソスタット投与でATP回復促進、マウスで腎障害を抑制
今回研究グループは、腎動脈クリッピングで一過性に腎血流を遮断したマウスの急性虚血腎において、ATPなどアデニル酸代謝産物の臓器内分布を時間軸に沿って解析。その結果、腎皮質のATPは10分間の短い虚血で80%減少して腎機能が低下し、さらに血流再開24時間後もATPの減少が継続され、元のレベルには回復しなかった。血流不足に伴うATP低下の遷延が腎障害を引き起こすということは、代謝変容が腎不全進展のメカニズムであり、また、細胞代謝を制御することが、腎不全の新たな治療戦略となる可能性を示唆している。
ATPなどのアデニル酸は肝臓や腎臓で分解され、尿酸に変換されて尿中に排泄される。尿酸値の上昇は痛風発作や慢性腎臓病(CKD)の増悪をひきおこすことから、血清尿酸値8mg/dl以上では、尿酸降下薬の服用が推奨されている。フェブキソスタットは、アデニル酸から尿酸に分解する経路のキサンチンオキシダーゼを阻害する薬剤で、尿酸産生を抑える尿酸降下薬として市販されている。そこで研究グループは、血流不足によるATP低下がフェブキソスタットで緩和される可能性を着想し、腎動脈クリッピングで10分間腎臓の血流を遮断したマウスに、フェブキソスタットを投与して、腎機能に与える効果を検討した。
血流再開後にフェブキソスタットを持続投与すると、ATPから尿酸への分解過程に存在するヒポキサンチンの増加が、質量分析イメージングを用いた解析で観察された。また、腎皮質のATPが増加しており、ヒポキサンチンからのアデニル酸(ATP、ADP、AMP)再合成の作用と考えられた。さらに、腎尿細管細胞を用いた検討において、アデニル酸再合成酵素のHRPT1を阻害すると、フェブキソスタットによるATP回復の促進作用が消失した。これらの結果から、フェブキソスタットは、ヒポキサンチンの分解を抑え、ヒポキサンチンからATPを再合成するサルベージ経路を活性化することで、腎血流不足に伴うATPレベルの低下を緩和し、腎保護効果を発揮することが明らかになった。研究グループは、「マウスで示された、フェブキソスタットによるアデニル酸再合成による腎保護効果が、ヒトにおいても有効であるかどうか、今後検証されることが期待される」と、述べている。
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