CPAP機器に通信装置、医療機関と患者双方の時間的制約解決へ
京都大学は、CPAP療法中の閉塞性睡眠時無呼吸患者に対する遠隔モニタリングシステムの有用性の実証研究結果を発表した。これは同大大学院医学研究科呼吸管理睡眠制御学講座陳和夫特定教授、村瀬公彦同特定助教らの研究チームによるもの。研究成果は、米国胸部疾患学会誌「Annals of the American Thoracic Society」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
CPAP(Continuous Positive Airway Pressure:持続気道陽圧)療法は OSA(Obstructive Sleep Apnea:閉塞性睡眠時無呼吸)の主要な治療法で、鼻あるいは鼻と口を覆うマスクを装着し、ある一定の陽圧を気道にかける医療機器を用いて行われる。しかし、この治療法の効果を十分に得るには、適切な使用時間と使用日数を維持することが重要とされている。日本で公的保険のもとCPAP療法を継続するには、定期的な医療機関の受診が必要。CPAP機器はその使用履歴を記録する小型媒体を内蔵していることが多く、受診の際に患者さんはその媒体を持ち込み、医師がデータを確認し適宜指導を行う診療方法が広く行われている。2019 年11月現在では、少なくとも3か月に1回の受診が必要。過去に毎月の受診が義務付けられていたこともあり、現在でも少なくとも全体の70%以上の患者は毎月の診察を継続している。
頻回に診察しその都度患者に指導を行うことは疾患管理の観点からは好ましいが、患者および医療機関双方の時間的な制約が問題になっている。一方、技術の進歩によって CPAP 機器に通信装置を取り付け、無線で CPAP 機器の使用状況を把握する遠隔モニタリングシステムの利用が可能となってきた。そこで、診察の回数を減らしても遠隔モニタリングシステムを併用して診療すれば、従来の診療方法と比べても治療アドヒアランスを維持する上で効果が劣らないことを検証する臨床試験を実施した。
遠隔モニタリング併用は治療アドヒアランスを維持、医療費削減にも効果
国内の医療機関17施設において、CPAP療法を開始して3か月以上経過、かつ、毎月あるいは隔月で受診を継続している患者508人を対象に行った。この508人を、「遠隔モニタリング群」「3か月群」「毎月群」の3 群に無作為に割り付けし、半年間経過を観察した。
1)遠隔モニタリング群―診察期間を3か月に延長し、遠隔モニタリングでCPAP療法の使用履歴を毎月確認し、使用状況の悪化があれば電話で遠隔指導を行う
2)3か月群-診察期間を3か月に延長するだけ
3)毎月群-診察期間を毎月とする
結果、観察期間において試験開始前より治療アドヒアランスが低下した患者の割合は、遠隔モニタリング群で25.5%、3か月群で33.1%、毎月群22.4%だった。統計学的解析を行い、治療アドヒアランスを維持する上で、遠隔モニタリング群は、毎月群に対し非劣性だった。一方、3か月群は、毎月群と比較して非劣性を示すことはできなかった。また、遠隔モニタリング群の患者で実際に電話指導が行われたのは約30%。患者の満足度は3か月群で高い傾向が見られた。
これらの結果より、少ない診察回数でも遠隔モニタリングシステムを併用して、治療機器の使用頻度が悪化した時に電話指導する方法は、従来の診療方法と比較して、患者の治療アドヒアランスを維持するうえで変わらないことが実証された。また、研究グループはこの試験で行った遠隔モニタリングを併用した診療方法を公的保険のもとで多くの患者に適用することで、CPAP 療法にかかる医療費が減少するという試算結果も発表した。患者の利便性と医師の働き方改革の面からもCPAP療法の遠隔医療モニタリングシステムの普及が望まれる。
▼関連リンク
・京都大学 研究成果