機能回復を目指して注目される、脳梗塞の「細胞療法」
新潟大学は11月18日、末梢血液中に存在し、脳梗塞後の病態に関与する単核球が、薬剤を用いない簡単な低酸素低糖刺激で、組織を修復する能力を活性化することを初めて見出したと発表した。この研究は、同大脳研究所神経内科学分野の畠山公大特任助教、金澤雅人准教授、二宮格大学院生、小野寺理教授、岐阜大学大学院医学系研究科脳神経内科学分野の下畑享良教授らの研究グループによるもの。研究成果は「Scientific Reports」に掲載されている。
画像はリリースより
脳卒中のひとつである脳梗塞は、後遺症に苦しむ患者が多く、治療にかかる医療費も増加の一途をたどっている。しかし、現在の治療は再発予防が主体で、機能回復療法はリハビリに限られており、半数は十分な機能回復が得られず、後遺症をもつ患者が多く存在する。一方、脳梗塞後の脳の障害のメカニズムは非常に複雑で、さまざまな物質が関わるため、単一の物質を標的とする治療では十分な効果を期待することは難しいとされている。そこで現在、細胞投与により脳梗塞を治療する「細胞療法」の研究が盛んに行われている。
研究グループは、脳内に存在するミクログリアに着目。ミクログリアを脳梗塞に類似した環境、つまり酸素とブドウ糖の濃度が低下した状況に短時間曝露させるという簡単な刺激により、ミクログリアが組織を修復する能力を活性化することを示していた。しかし、ミクログリアは脳内に存在するため、ヒトから採取することは困難だった。
実用化の場合、特別な細胞培養施設を持たない一般病院でも実施可能
そこで今回、末梢血液中に存在する単核球に着目。単核球に低酸素・低糖刺激を与えたところ、単核球も組織修復する能力を持つことを初めて明らかにした。組織修復とは、血管新生や神経軸索を進展させるVEGF、TGF-β分泌促進、脳内で多能性幹細胞が発現するSSEA-3陽性細胞が増加するもの。
脳梗塞発症後1週間経過したラットに、低酸素・低糖刺激を与えた単核球を投与すると、細胞が血管のバリアを越えて脳内に入り込み、VEGF、TGF-βを、脳梗塞の周囲で増加させることが明らかになった。さらに、脳梗塞病変における血管の新生および神経細胞の再生が促進された結果、脳梗塞後遺症である運動感覚障害の回復が促進されることも判明した。加えて、単核球に簡単な刺激を与えることにより、単核球が組織を修復する能力を活性化することを明らかにした。また、この細胞を脳梗塞後遺症のある患者に投与することで、機能回復が促進される治療法となり得ることを示した。
現在、脳梗塞に対する細胞療法として、iPS細胞や、培養した幹細胞などが研究されているが、これらと比較して、末梢血単核球は細胞の操作が簡便で、発症早期から治療が可能となる点、また、自身の細胞を用いるのでがん化のリスクがないという点で、より安全な臨床応用が可能となる。また、細胞は採血のみで採取することが可能となり、患者への負担が少ない点、細胞培養施設を必要としないという点で、従来の治療法に比べ、格段に簡便かつ低コスト化することが可能だという。
この治療法が実用化されれば、簡単な操作で細胞を製造できるため、特別な細胞培養施設を持たない一般病院でも、治療を普及できる可能性があるという。現在、採血から細胞の分離、低酸素・低糖刺激までを一貫して行える装置を、産学官共同で開発中であり、早期の臨床応用を目指している。なお、同技術は国際特許出願を行い、臨床応用することを目指して研究が進められている。
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・新潟大学 研究成果