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肺動脈性肺高血圧症の疾患関連遺伝子「ATOH8」を同定-東大

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2019年11月18日 AM11:45

BMPに関係する新規疾患関連遺伝子候補の網羅的解析を実施

東京大学は11月13日、骨形成因子(BMP)に関係する新規疾患関連遺伝子候補の網羅的解析を行い、これまで詳細な機能が知られていなかった転写因子ATOH8を見出したと発表した。この研究は、同大学大学院医学系研究科の森川真大助教、鯉沼代造准教授、宮園浩平教授、三重大学の三谷義英准教授、丸山一男教授、京都大学の影山龍一郎教授、スウェーデン ウプサラ大学のCarl-Henrik Heldin(カールヘンリク・ヘルディン)教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Science Signaling」に掲載された。


画像はリリースより

(PAH)は、さまざまな原因により心臓から肺に血液を送るための血管(肺動脈)の細い部分(肺細動脈)が異常に狭くなり、肺動脈の血圧が上昇して右心不全が生じる病気。PAHは指定難病でもあり、原因解明と有効な治療法の研究開発が急務だ。PAH患者では、BMPの受容体の遺伝子BMPR2の異常が見られる。BMPR2の他にもBMPの働きに関係した遺伝子の異常が見つかることが多く、肺高血圧症の発症・進展にBMPが重要な役割を果たしていると考えられている。しかし、異常なBMPR2遺伝子を有している場合でも、肺高血圧症を発症する確率は10~20%とされており、BMPがどのように病気の発症・進展に関与するかは完全には解明されていない。

肺動脈血管内皮細胞のBMP/ATOH8経路、肺高血圧症の発症・進展に関連

研究グループは、BMPに関係するPAHの新規疾患関連遺伝子候補の網羅的解析を実施。これまで詳細な機能が知られていなかった転写因子ATOH8を見出した。研究グループは、先行研究より、次世代シークエンサーを用いた解析法であるクロマチン免疫沈降シークエンス法(ChIP-seq法)を駆使して、血管内皮細胞におけるBMPの標的候補遺伝子を同定していた。それら候補遺伝子の中で、心臓や血管の機能に関係した各種データベースをもとにスクリーニングを行い、転写因子ATOH8に注目した。ゼブラフィッシュやマウスなど複数の動物モデルでATOH8の個体レベルでの機能を解析し、ATOH8欠損マウスがPAHに類似した表現型(右心室圧上昇および肺血管病変形成)を呈することを明らかにした。また、ヒト患者由来サンプルを再解析し、肺高血圧症患者ではATOH8の発現が低くなっていることを示した。さらに、培養細胞での解析で、BMPはATOH8タンパクの発現を増やすことで低酸素応答に対して保護的に機能すること、ATOH8は低酸素応答で中心的な役割を果たすHIF-2αのタンパク量を減らすことを明らかにした。

同研究成果より、肺動脈血管内皮細胞のBMP/ATOH8経路は、低酸素に対して保護的役割を果たし、肺高血圧症の発症・進展に関わっていることが示唆された。BMPが低酸素による血管内皮細胞の障害に対して保護的役割を果たすことは知られていたが、今回の発見からATOH8とHIF-2αが重要な役割を果たすことが予想されるという。これは、HIF-2α阻害薬がPAH動物モデルで治療効果を発揮したという最近の報告にも合致する。

これまで、肺の血管を拡げて血液の流れを改善させる新たな治療法の開発により患者の予後は改善しているが、BMPの機能異常との関係に踏み込んだ治療法は開発途上だ。研究グループは、同研究が端緒となり、PAH発症・進展におけるBMPの役割の解明がさらに進むと考えられるとし、将来的な新規治療法の開発に大きく貢献することが期待される、と述べている。

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