高血圧患者におけるアディポネクチンの臨床的意義について研究
熊本大学は11月13日、血中アディポネクチン高値が、高リスク高血圧患者における心血管疾患・腎疾患の発症リスクと有意に関連していることを明らかにしたと発表した。この研究は、生命科学研究部(医学系)の光山勝慶教授、同大学病院地域医療・総合診療実践学寄附講座の松井邦彦特任教授、同大学保健センターの副島弘文准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、英国のオープンアクセスジャーナル「Scientific reports」に掲載されている。
画像はリリースより
脂肪細胞から分泌されるタンパク質「アディポネクチン」は、生体に有益な多彩な生理活性を持つ“善玉”体内物質として注目されている。また、肥満、糖尿病、高血圧、メタボリックシンドロームなどの生活習慣病では、しばしば血中のアディポネクチン値の低下が問題視されており、それが生活習慣病の悪化や動脈硬化を促進し、循環器疾患の発症リスクを高めると懸念されている。
そのため、血中アディポネクチン濃度を高めることは、生活習慣病や循環器疾患の予防・治療に有益と考えられており、それを目的とした新しい治療法の臨床応用が期待されている。しかし、これまで高血圧患者におけるアディポネクチンの臨床的意義については、十分にわかっていなかった。
アディポネクチン最高値グループで、心血管疾患発症・腎機能悪化のイベント発生率高く
研究グループは、公益財団法人長寿科学振興財団の支援を受けて行ったATTEMPT-CVD研究で得られたデータをもとに、血中アディポネクチン濃度と高血圧患者での循環器疾患発症リスクとの関連性について解析を行った。
まず、ATTEMPT-CVD研究で追跡した外来高血圧患者1,228人を、血中アディポネクチン濃度の違いで4グループに分け、血中アディポネクチン低値から順にQ1(アディポネクチン値:0.84-3.56μg/mL)、Q2(同3.57-5.28μg/mL)、Q3(同5.29-7.87μg/mL)
、Q4(同7.88-41.59μg/mL)の4グループに分類した。
4グループの3年間の追跡期間中の血圧値はほぼ同等だった。しかし、心血管疾患発症・腎機能悪化の複合評価項目であるイベント発生数は、Q1で17例、Q2で18例、Q3で19例だったが、アディポネクチン最高値グループであるQ4では35例であり、著明に多くなった。さらに、性別、年齢、心血管病の既往有無、糖尿病の有無、尿中アルブミン排泄量、血漿BNP、糸球体ろ過率、喫煙の有無などの交絡因子で調整後も、Q4グループは独立して心血管疾患発症/腎機能悪化の複合評価項目のイベント発生と有意な関連があった(ハザード比1.949;95%信頼区間:1.051-3.612;P=0.0341)。これらの結果から、血中アディポネクチン高値は、高リスク高血圧患者における心血管疾患・腎疾患の発症リスクと有意に関連していることが明らかになった。
これまでの研究では、血中アディポネクチン値を高めることが生活習慣病改善や健康寿命の延伸に有益であると考えられていたが、今回の研究成果により、患者の病態によっては血中アディポネクチン値を高めることが必ずしも有益ではなく、むしろ循環器疾患発症の高リスクと関連するという新たな知見が示されたと言える。
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