スーパーセンチナリアン(110歳以上)が長寿な理由を免疫細胞の特徴から探る
理化学研究所(理研)は11月13日、スーパーセンチナリアン(110歳以上)が特殊なT細胞である「CD4陽性キラーT細胞」を血液中に多く持つことを発見したと発表した。この研究は、理研生命医科学研究センタートランスクリプトーム研究チームの橋本浩介専任研究員、ピエロ・カルニンチチームリーダーと、慶應義塾大学医学部百寿総合研究センターの広瀬信義特別招聘教授(研究当時)らの共同研究グループによるもの。研究成果は、米国の科学雑誌「Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)」のオンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
スーパーセンチナリアンは110歳に達した特別長寿な人々のことを指し、自立的な生活を送る期間が長いことから、理想的な健康長寿のモデルと考えられている。一般的に、老化に伴って免疫力が低下してくると、がんや感染症などのリスクが飛躍的に高まる。しかし、スーパーセンチナリアンはこうした致命的な病気を回避してきていることから、高齢になっても免疫システムが良好な状態を保っていると考えられる。
どのようにして免疫力が維持されているのかは興味深い研究課題だが、多数の百寿者(100歳以上の人々)を擁する長寿国の日本においても、110歳を超える人の数は限られており、スーパーセンチナリアンの免疫細胞はこれまでほとんど研究されていなかった。そこで、長寿研究を専門とする慶應義塾大学医学部百寿研究センターと、分子レベルの解析を専門とする理研生命医科学研究センターが共同で、スーパーセンチナリアンの血液中を流れる免疫細胞の詳細な分析を試みた。
ヒトにはあまり存在しない「CD4陽性キラーT細胞」が血中に多かった
研究グループは、スーパーセンチナリアン7人と50~80歳の5人から採血を行い、免疫細胞を抽出してシークエンサーによるトランスクリプトームのシングルセル解析を行った。合計で約6万細胞を調べたところ、スーパーセンチナリアンでは50~80歳と比べて、免疫細胞の中でもT細胞の構成が大きく変化しており、細胞傷害性分子を発現するT細胞(キラーT細胞)の割合が高くなっていることが明らかになった。
T細胞は、他の免疫細胞を助ける「CD4陽性ヘルパーT細胞」と、がん細胞などを殺す「CD8陽性キラーT細胞」という2種類のサブタイプに分類される。興味深いことに、スーパーセンチナリアンの持つキラーT細胞は、通常のCD8陽性キラーT細胞だけでなく、ヒトの血液にはあまり存在しないはずの「CD4陽性キラーT細胞」を多く含むことが明らかになった。また、他のグループが公開している20歳代から70歳代までの血液データを解析したところ、このような特徴を持つT細胞は非常に少なく、CD4陽性キラーT細胞はスーパーセンチナリアンで特異的に増加していることが判明した。
次に、7人のうち2人のスーパーセンチナリアンについて、T細胞受容体の配列を1細胞レベルで解析。その結果、多くのCD4陽性キラーT細胞が同一の受容体を持つことが明らかになった。このことは、T細胞が特定の抗原に対してクローン性増殖をした可能性を示している。ただし、どのような抗原に対して増殖したのか、また老化における増殖したことの意義はまだ明らかになっておらず、さらなる研究が必要だという。「今回の研究成果を経てもなお、CD4陽性キラーT細胞は通常は少量しか存在しないこともあり、ヒトの免疫システムの中でどのような役割を果たしているのかは明らかになっていない。しかし、マウスモデルを使った実験では、CD4陽性キラーT細胞がメラノーマを排除したことが示されており、今後の研究によって、老化や長寿において果たす役割が明らかになることが期待される」と、研究グループは述べている。
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・理化学研究所 研究成果