地域レベルの失業率は死亡率やうつ症状とも関連
東北大学は11月11日、政府統計調査の個票データを用いた調査から、都道府県単位の完全失業率と腰痛の有訴に関連があることが確認されたと発表した。これは同大大学院歯学研究科の杉山賢明助教らの研究グループによるもの。研究成果は、国際科学誌「International Journal of Environmental Research and Public Health」に掲載されている。
腰痛は、我が国において最も有訴者率が高く、健康寿命の短縮に影響している症状の1つ。近年、地域レベルの社会経済状況(Socioeconomic status; SES)が、個人のSESに加えて、健康の社会的決定要因の1つとして報告されている。なかでも、地域レベルの失業率は労働者人口において、死亡率やうつ症状などと関連することが報告されており、政策などによって修正可能な地域レベルの重要な指標。しかしこれまで、腰痛と地域単位の失業率の関連については明らかにされていなかった。そこで研究グループは、労働者人口において、各都道府県の完全失業率が腰痛の有訴と関連するかどうかを検証した。
腰痛有訴に男女差、失業による経済的不安から受診控えると推察
研究グループは、政府統計調査の個票データを二次利用した繰り返し横断研究を実施。目的外使用の利用許可を得た2010年・2013年・2016年の国民生活基礎調査の世帯票および健康票のデータセットをリンケージさせて解析。計96万2,586人の労働者人口における腰痛と都道府県の失業率の関連の検証をした。
腰痛の有訴率は、2010年は9.8%、2013年は9.7%、2016年は9.4%。都道府県単位の完全失業率と個人の腰痛有訴の関連について、完全失業率が1%上昇すると、腰痛の有訴のリスクが1.01倍有意に高くなることがわかった。これにより、少なく見積もっても全国で77万人の腰痛有訴者が増えることが示唆された。また、完全失業率の上昇は、男性よりも女性の方が影響を受けることも判明。失業率が1%上昇する影響は、男性と比較して女性の方が、腰痛有訴リスクが1.02倍有意に高くなる。この関連は性別や年齢、職業階級(無職も含め)、学歴などの個人的な要因の影響を除いた上でも認められた。
失業率が高くなると、経済的な不安が“伝染”してしまい、その結果、医療機関への受診を控えてしまうことが機序として考えられるという。また、女性の方が失業率の影響を受けやすいのは、女性の方が男性と比較して社会的に低い職位が多いこと、未だに結婚や出産に伴う離職が、他のOECD諸国と比較しても多いことによる経済的な不安定さを反映している可能性が考えられる。「本研究により、失業率の高い都道府県において予防を含めた腰痛への積極的な介入の重要性が示唆され、雇用に関する男女格差の是正も腰痛対策において重要であると考えられる」と、研究グループは述べている。
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・東北大学 プレスリリース