同院薬剤部は、昨年4月から「アイファルマ」の試験運用に着手。使用性の検証や向上、機能の充実などに取り組んできた。今年10月には木村情報技術の支援を受け、薬剤部内に人工知能応用メディカルイノベーション創造部門を発足。薬剤部の神崎浩孝氏を部門長に抜擢し、他施設への水平展開や機能拡張を進める体制を強化した。検証を経て運用のメドが立ったことから、全国の病院や薬局に開放することになった。
「アイファルマ」の基本機能は、医師などから受けた医薬品の質問を薬剤師が自然な話し言葉で入力すると、AIが意図を読み取り、薬剤部などが蓄積してきたQ&Aデータベースの中から最適な回答を提示するもの。現在、約1万5400件のQ&Aが登録されている。大半は同院薬剤部のDI室が蓄積してきたQ&Aだが、このうち約950件は最近ユーザーに加わった杏林大学病院のQ&Aとなる。特徴が異なる病院が加わることでQ&Aの厚みが増し、利便性がさらに向上するという。
神崎氏は「大学病院を中心に、いくつかの病院からユーザーとして加わりたいとの声がある。本格運用に向けて、まずは今年度内に試験利用施設数を20病院に増やし、来年7月頃をメドに本格運用を開始したい。薬局での利用も想定しており、今後運用の細部を詰めていきたい」と語る。
本格運用に向けて機能拡充も進める。医療用医薬品約2400品目の添付文書情報をもとに、様々な質問に対応できるQ&Aデータベースを手作業で作り、AIに学習させた。他の品目の添付文書やインタビューフォーム、相互作用、配合変化、腎機能投与量、代替薬など各種情報源を搭載。その中から知りたいことを検索できる機能を本格運用までに設ける。小児用量、妊婦・授乳婦、経管投与、粉砕化などの情報源も段階的に追加する。
各都道府県の病院薬剤師会単位で集積しているプレアボイド事例を個人情報を除いてデータベース化し、検索できる機能を搭載する計画だ。
木村情報技術と国立がん研究センターが共同で研究している「ファルマイン」とは基盤システムが同じで、搭載するQ&Aのデータベースが異なる。当面は両プラットフォームが並行して存在しつつ、全国の病院や薬局に利用を広げる役割は「アイファルマ」が担うことになるという。
今後、製薬企業との連携も深めたい考えだ。木村情報技術の木村隆夫社長は、「医療従事者が各プラットフォームに質問を投げかけ、AIなどが最適な回答を提示できなかった場合には、製薬企業のコールセンターが有人チャットで対応する仕組みを構築したい」と話す。質問窓口の一本化によって医療従事者の利便性は高まり、製薬企業の負担は減少する。対価を得てシステムの運用費に充てることで「ユーザーの基本利用料を無料にしたい」と話している。