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適切に物が見える明暗順応の分子機構解明、加齢黄斑変性など治療薬開発に期待-阪大

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2019年11月12日 AM11:45

桿体視細胞が外界の光の強度に応じて光受容感度を制御する仕組みを探索

大阪大学は11月7日、明るい場所でも暗い場所でも環境の変化に応じて適切に物体を見ることができる機能「明暗順応」の分子メカニズムを明らかにしたと発表した。これは同大蛋白質研究所の古川貴久教授と茶屋太郎准教授の研究グループによるもの。研究成果は、欧州科学誌「The EMBO Journal」で公開されている。


画像はリリースより

人が物を見る時の明暗順応は、視覚に重要な役割を果たしている。光を受容するのは、眼球の後ろにある膜状の神経組織の網膜で、光を感知する視細胞には、暗い場所で働く桿体視細胞と、明るい場所で働く錐体視細胞が存在。桿体視細胞が外節と呼ばれる細胞の外側にある構造で光を受けると、トランスデューシン(Transducin)という光情報を伝えるタンパク質が、より内側の細胞核がある細胞体へ移動し情報を伝える。一方、トランスデューシンは暗い条件において外節に集積する。このトランスデューシンの移動によって桿体視細胞の光受容感度を調節することが知られている。しかしながら、桿体視細胞が外界の光の強度に応じて光受容感度を制御する分子メカニズムはこれまで謎のままだった。

明暗順応はKlhl18というユビキチン化酵素により制御

網膜の発生と機能メカニズムの研究を行っている古川教授の研究グループは、視細胞の発生と機能に重要な分子の探索から、桿体視細胞にKlhl18というユビキチン化酵素が強く発現することを見いだした。さらに明暗に応じて、Klhl18が働き、トランスデューシンと結合することが知られるUnc119タンパク質をユビキチン化し分解することで、トランスデューシンの細胞内局在の変化を制御することを明らかにした。研究において、桿体視細胞におけるUnc119の発現は、Klhl18に依存して暗い条件下で減少。明るい条件でKlhl18によるUnc119の分解は、Unc119のリン酸化により抑制されていた。

また研究グループは、マウスを用いた実験から、Klhl18の活性の阻害や、Unc119のリン酸化を抑制する効果をもつ免疫抑制剤(FK506など)が、光による視細胞の変性を抑制していることも見出した。

視細胞が光を感知することは、物を見ることに必須だが、その反面、視細胞は光でダメージを受ける。通常の光でも、ゆっくりと視細胞がダメージを受けて老化が進んでいる。今回発見した明暗順応の仕組みを利用することによって、網膜視細胞の光に対する感度を下げることで視細胞を光による長期的なダメージや老化から守り、加齢黄斑変性や網膜色素変性症をはじめとする網膜変性疾患の治療薬(進行抑制薬、予防薬)の開発につながると考えられる。「今回明らかになった仕組みは、明所や色覚をつかさどる錐体視細胞には影響を与えないことから、正常な明所視力を保ったまま網膜変性疾患を抑制する薬剤開発につながることが期待される」と、研究グループは述べている。

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