IBD患者の腸管に多く存在する「AIEC」
慶應義塾大学は11月7日、食事由来のアミノ酸の制御が、炎症腸管における潜在的病原細菌の増殖を抑制するのに重要であることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大先端生命科学研究所の福田真嗣特任教授、ミシガン大学医学部消化器内科の鎌田信彦博士、クレルモン・オーヴェルニュ大学のニコラ・バーニッシュ教授らの国際共同研究グループによるもの。研究成果は、国際科学誌「Nature Microbiology」のオンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
潰瘍性大腸炎やクローン病に代表される炎症性腸疾患「IBD」は、腸管慢性炎症を特徴とする原因不明の難治性腸疾患。近年、欧米だけでなく日本においても患者数が増加の一途をたどっており、今後もさらに増えることが予想されている。
これまでの研究で、IBD患者の腸管には、腸管接着性侵入性大腸菌(AIEC)と言われる病原性大腸菌が多く存在すると報告されており、IBDの病態形成に関与する可能性が示唆されている。しかし、どのようにAIECが炎症腸管で増殖して定着するかについては、いまだ不明な点が多く、解明すべき課題となっている。
より安全で効果的な次世代栄養療法の開発に期待
今回研究グループは、クローン病患者から単離されたAIEC株を無菌マウスの腸管に定着させたのち、非炎症腸管と炎症腸管における遺伝子発現を比較することで、AIECが炎症腸管に効率的に定着するために必要な遺伝子群の同定を試みた。
その結果、AIECは炎症期には、自身の代謝嗜好性を炭水化物代謝からアミノ酸代謝(特にセリン代謝)に変化させることで、常在大腸菌のような競合細菌との栄養素の取り合いに打ち勝つ能力を有することを発見した。さらに、腸管内のセリン濃度が食事性アミノ酸の摂取量により制御できることを利用し、短期的な低濃度セリン食によって宿主に影響を与えることなく、炎症腸管におけるAIECの増殖抑制、ひいては腸炎の病態改善が可能であることを示した。
現在、IBD患者の再燃予防および寛解維持を目的として、タンパク性抗原や難消化性多糖を除去した成分栄養剤による経腸栄養療法が広く行われているが、同研究の成果を応用することで、より安全で効果的な次世代栄養療法の開発が期待される。さらに、同研究で同定されたAIECのアミノ酸代謝経路を標的としたIBDの予防・治療薬の開発も期待される。
研究グループは、「同時に特定の病原性細菌の環境適応能力とその治療戦略の一例を明らかにした本研究は、近年注目されているヒトの健康維持や疾患予防を目的とした“腸内細菌叢の制御”を目指した分子基盤解明の一助になると考えられる」と、述べている。
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・慶応義塾大学 プレスリリース