ASD患者の感覚処理の、どの段階に違いがあるのかについて研究
東京大学は11月6日、自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorders: ASD)者と健常者における、匂いを嗅いでいる際の脳活動の時間的・領域的違いを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院農学生命科学研究科の奥村俊樹博士課程学生、同・岡本雅子特任准教授、同・Singh Archana K特任研究員(当時)、同・東原和成教授、国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 児童・予防精神医学研究部 児童・青年期精神保健研究室 熊崎博一室長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Chemical Senses」に掲載されている。
画像はリリースより
ASDは、対人関係、コミュニケーション、興味の範囲の3つの場面に障害を持つほか、匂い、音、光など感覚刺激に対する反応にも特徴があることが知られている。しかし、嗅覚については、脳における情報処理のどのような段階に特徴を持つのか、明らかにされていなかった。
そこで研究グループは、脳活動の時間変化を詳細に捉えられる脳波を用いて、ASD患者と健常者の嗅覚誘発脳波を比較し、ASD患者の感覚処理のどの段階に違いがあるのかを明らかにすることを目指し、研究を行った。
嗅覚処理の比較的後期に違いがあることを示唆
研究では、14名のASD患者と19名の健常者の匂いに対する脳活動を、頭表に設置した64個の電極において計測。ASD群と健常群の間の脳活動の違いを検証するために、各電極、各時点における電位の大きさを比較したところ、後頭部の電極において、匂い呈示後1039~1113ミリ秒で ASD患者の電位が小さいことがわかった。次に、64個の電位の分布パターンを比較したところ、匂い呈示後、542~552 ミリ秒、724~738ミリ秒において違いが認められた。これらの結果から、ASD患者の嗅覚処理のうち、時間的に比較的後期の段階で違いがあることが示唆された。さらに、これらの違いがどの脳領域の活動の違いを反映しているのかを、64個の電位の分布パターンと頭部の構造および各組織の伝導率から推定したところ、楔部や後帯状皮質などの、匂いの情報処理の中でも、高次の認知処理に関与することが知られる領域の活動が、ASD患者の方が大きいことが示唆されたという。
研究グループは、「現在までアンケートを用いた研究などで、ASD者の嗅覚特性は健常者と異なることが報告されていたが、本研究によって脳波検査においても異なることが明らかになったことで、今後ASD者の病態についての理解が深まり、より適切な支援の足掛かりとなることが期待される」と、述べている。
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・東京大学 研究成果