入れ歯の清掃頻度と肺炎発症の有無を在宅高齢者対象に調査
東北大学は10月28日、地域在住高齢者を対象とした調査から、入れ歯の清掃頻度が過去1年間の肺炎発症と関連することを明らかにしたと発表した。これは同大大学院歯学研究科の研究グループによるもの。詳細は、「Scientific Reports」電子版に掲載されている。
画像はリリースより
肺炎は高齢者において死因の上位を占めており、嚥下機能および免疫機能が低下する高齢者では、飲食物や唾液などが肺に入ることによる誤嚥性肺炎を発症するリスクが高い。そのため入院患者や介護施設入所者に対し、口腔ケアを実施することで、肺炎を予防できることが報告されてきた。高齢者は歯の喪失に伴い、入れ歯を装着している人が多い。入れ歯の表面にはデンチャー・プラークと呼ばれる、細菌などからなる有機物が付着しており、それらが誤嚥により肺に到達し、肺炎を引き起こす可能性がある。本研究では、地域在住高齢者を対象に調査を行い、入れ歯の清掃頻度が過去1年間の肺炎発症と関連するのかを検証した。
75歳以上で毎日入れ歯清掃をしないと肺炎リスクが1.58倍高い
2016年に実施されたJAGES(Japan Gerontological Evaluation Study; 日本老年学的研究)調査に参加した要介護認定を受けていない65歳以上の高齢者の内、入れ歯を使用している71,227人を対象に入れ歯の清掃頻度と過去1年間の肺炎発症の有無の関連を横断研究で調べた。清掃頻度は「毎日入れ歯の手入れをしていますか?」という質問に「はい」または「いいえ」で答えてもらった。
分析に際して、無回答の項目を統計学的に補完した上で、交絡因子として性別、年齢、喫煙歴、等価所得、教育歴、現在歯数、ADL、脳梗塞・認知症の既往、肺炎球菌ワクチンの接種を用いて傾向スコアを算出し、逆確率による重みづけを用いたロジスティック回帰分析を行い、仮想的に対象集団の背景因子を同じにしたときに入れ歯を毎日清掃する人としない人で肺炎発症のリスクが異なるかを評価した。
対象者7万1,227人のうち、過去1年間に肺炎を発症したと答えた人は2.3%、入れ歯を毎日清掃しない人は4.6%であった。また、入れ歯を毎日清掃する人で過去1年間に肺炎を発症した人は2.3%であった一方、毎日は清掃しない人では3.0%であった。さらに75歳以上の人に限ると入れ歯を毎日清掃する人では過去1年間に肺炎を発症した人は2.9%であった一方、毎日は清掃しない人では4.3%と肺炎発症のリスクが高くなった。また、傾向スコアを用いた統計解析により、65歳以上の全対象者では入れ歯を毎日は清掃しないことにより、リスクが1.30(95%信頼区間:1.01-1.68)倍高く、また、75歳以上の人に限ると1.58(95%信頼区間:1.15-2.17)倍高くなることが示された。
本研究から、地域在住高齢者において入れ歯を毎日清掃していないことで、肺炎発症のリスクが上昇する可能性が示された。要介護状態にない人でも、入れ歯を使っている人は、手入れを毎日行うことが肺炎の予防につながる可能性がある。「定期的に歯科医院で、入れ歯の状態のチェックや、家庭でとれない歯石などの入れ歯汚れを除去してもらうことも大切だと言える」と、研究グループは述べている。
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