不妊直面の夫婦増加、代理懐胎などに対し社会的合意形成へ
東京大学医学部附属病院は10月31日、子宮移植、代理懐胎、養子縁組に対する国内の意識調査の結果を発表した。この調査は、同院女性診療科・産科の平田哲也医師、女性外科の大須賀穣教授らによるもの。詳細は米国の科学雑誌「PLOS ONE」に掲載されている。
画像はリリースより
不妊症は、カップルの1~2割に見られ、晩婚化に伴い、不妊に直面する夫婦は増加。近年、生殖補助医療が進歩し、国内でも出生児18人に1人が体外受精で生まれている(2016年)。また、生まれつき子宮を持たない子宮性不妊患者に対し、妻以外の子宮で妊娠をする代理懐胎が技術的には可能となったが、代理懐胎は倫理的、社会的問題もあり、現在のところ国内では行われていない。
それに代わる選択肢として、第三者の子宮を手術により移植する子宮移植により、出産に成功した例が海外で報告されている。2014年にスウェーデンで生体ドナーからの子宮移植で出産に成功したという報告や、2019年にブラジルで脳死ドナーからの子宮移植で出産に成功したという報告がある。世界ですでに10人以上の子どもが誕生。現在国内でも、子宮移植の臨床応用にむけた取り組みが進んでいる。
子宮移植に肯定的な一方、移植手術後の妊娠、出産リスクを危惧する意見も多数
そこで研究グループは、子宮移植や代理懐胎による生殖医療を国内で行うことについての可否や、仮に行うこととした場合に、適切に行うためにはどのように進めるべきかについて、社会的合意形成が必要と考え、子宮移植、代理懐胎に対する国内の意識調査を行った。子宮移植のドナーとなる可能性のある40代以上の女性や男性の意見も反映されるべきと考え、子宮移植に対する意識調査を20歳~59歳の男女を対象に実施した。アンケートはインターネット上で回答する形式で、男女1,600人(20/30/40/50代から各200人)から回答を得た。調査結果は男女、年代、不妊経験の有無などでセグメントされ検証された。
・子宮移植を社会的に認めるべきか-
認めるべき36.5%、認めるべきでない17.0%、わからない46.5%(全体)
・代理懐胎を社会的に認めるべきか-
認めるべき31.0%、認めるべきでない19.9%、わからない49.1%(全体)
どちらの質問についても、50代女性で「認めるべきでない」と答えた人が多く、また、男女ともに、不妊経験のない群に比べ、不妊経験のある群で「認めるべき」と答えた人が多くみられた。子宮移植に肯定的な理由は、「子宮性不妊の人にとっての希望となるから(67.1%)」、一方、子宮移植に否定的な理由は、「子宮移植の手術自体のリスクが高いから(52.6%)」だった。
・子宮性不妊と仮定した場合に、自分の子どもを得るためにどの方法を用いるか-
子宮移植10.1%、代理懐胎5.8%、養子縁組14.3%、わからない48.3%(全体)
子宮性不妊の患者に対する「子宮移植」や「代理懐胎」に対する意識は、肯定的な意見が否定的な意見を上回っていた。さらに、その差は性別、年齢、不妊経験の有無、子宮移植に対する知識の程度に影響を受けていることもわかった。また、肯定的な意見の理由で最も多かったのが「子宮移植が子宮性不妊の患者にとっての希望になること」、否定的な意見の理由で最も多かったのが、「子宮移植のための手術のリスクが高い」だった。
今回の調査では、子宮移植に肯定的な意見が多い一方で、子宮移植手術、移植後の妊娠、出産のリスクを危惧する意見も多くみられた。また、ほとんどの質問において30%以上の人が「わからない」と答えたことから、「社会的合意を得るためには、子宮移植の発展と安全性についての知識を提供し、議論を活発化させる必要がある」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・東京大学医学部附属病院 プレスリリース