ヒドロキシクロロキン使用は「考慮する」に留める
サノフィ株式会社は10月30日、「本邦初の全身性エリテマトーデス(SLE)診療ガイドライン発行」と題してメディアラウンドテーブルを開催。北海道大学大学院医学研究院免疫・代謝内科学教室教授の渥美達也氏と、SLE患者で全国膠原病友の会監事などを務める後藤眞理子氏が、現在のSLE診療について医師と患者の立場からそれぞれ講演した。
北海道大学大学院医学研究院免疫・代謝内科学教室教授
渥美達也氏
まず、日本初の「全身性エリテマトーデス診療ガイドライン 2019」が11月に発行されたことを受け、診療ガイドライン(GL)統括委員会委員長を務めた渥美氏が「SLE診療の標準化」と題して講演した。同GLは、専門医を対象とした、SLEの臨床的多様性に対応する総合的な内容となっている。推奨の強さは、「推奨する」「提案する」「考慮する」の3段階で設定された。
渥美氏は、講演の中でクリニカルクエスチョン(CQ)を紹介。ヒドロキシクロロキン(製品名:プラケニル)の使用については今回、最も推奨が弱い「考慮する」に留まった。ヒドロキシクロロキンのSLEへの使用例数は海外では比較的多いが、日本国内では長期使用により網膜症が発生する可能性があることなどにより使用例数が少ない。そのため、「全てのSLE患者でヒドロキシクロロキンの使用を推奨する、と記載することに対しては慎重になるべき、という見解で一致した」(渥美氏)という。その他、妊娠計画中、妊娠中、出産後・搾乳中のSLE治療薬の選択や、SLEの疾患活動性評価のモニタリングの推奨についても紹介した。
続いて、現在のSLE治療目標は「生命予後の改善に加えて、長期にわたって患者の生活の質(QOL)を落とさないこと」と渥美氏。SLEは若年女性に好発するため、治療と仕事を両立させることや、妊娠・出産といったライフイベントに対応していくことも求められる。そういった状況を鑑みて、今回のGLでは治療目標を「社会的寛解の維持」と明記したのだという。同GLがSLE治療の標準化に貢献することを期待するとして、渥美氏は講演を締めくくった。
患者とのコミュニケーションに重点を置き、社会的寛解の維持へ
全国膠原病友の会監事
後藤眞理子氏
次に、「SLE診療の現状と課題」と題して後藤氏が講演した。慢性疾患であるSLEは、治療を続けていくうえで医師と患者のコミュニケーションが大切になるが、医師とうまくコミュニケーションをとれずに悩む患者も多いという。例えば、SLE患者によく見られる症状として、倦怠感や疲労感がある。しかし、これらの症状がSLEによるものなのかを患者自身が判断すること、また、症状を言語化して医師に伝えることが難しいのだ。「うまく伝えられず、一人で悩んでしまう患者さんもいる」と後藤氏。その他、「薬を増やしたくない、という思いから多少の症状は医師に報告しない」といった患者もいると述べた。
これを受けて、「医師は患者さんと信頼関係を築くためにも、(SLEに関連する話だけでなく)患者さんの家庭でのお話などにも耳を傾けることが大切」と述べた渥美氏。社会的寛解を維持するためには、SLEの疾患活動性の適切な評価を行うとともに、患者を取り巻くさまざまな状況を把握しつつ、患者側の心境も理解したうえでコミュニケーションをとることが重要であることを主張した。
▼関連リンク
・全身性エリテマトーデス診療ガイドライン 2019