PD-1/PD-L1阻害薬に耐性を持ったがんへの新治療法開発
近畿大学は、第一三共株式会社(以下、第一三共)が開発中のがん治療薬「U3-1402」と、既存の免疫チェックポイント阻害薬の併用治療が有用である可能性を、非臨床試験において確認したと発表した。これは、同大医学部内科学教室腫瘍内科部門 原谷浩司助教、米阪仁雄講師、中川和彦主任教授らを中心とする研究チームによるもの。研究成果は「Journal of Clinical Investigation」にオンライン掲載されている。
免疫チェックポイント阻害薬の代表薬であるPD-1/PD-L1阻害薬は、多くの固形がんにおいて有効性を発揮しており、進行がん患者における長期生存を可能にしている。しかし、その長期生存効果は一部の患者でしか得られないこともわかっており、PD-1/PD-L1阻害薬に耐性を持ったがん細胞にどう対応するかが喫緊の課題となっている。近年の臨床試験の結果から、PD-1/PD-L1阻害薬に殺細胞薬を併用することでより高い治療効果が得られることがわかってきましたが、その併用効果は決して十分ではなく、さらなる治療戦略の開発が必要とされている。
U3-1402は、第一三共が臨床開発を進めている新規抗HER3抗体薬物複合体である。さまざまな固形がん細胞において高発現が認められる「HER3」を標的とした抗体に、殺細胞薬であるDNAトポイソメラーゼI阻害剤を結合させた抗体薬物複合体の一種で、がん細胞にピンポイントで殺細胞薬を届けることを目指し、早期臨床試験において安全性および有効性を検証中である。
U3-1402による免疫活性化によりPD-1/PD-L1阻害薬の治療効果が増強
研究グループは、U3-1402の腫瘍免疫における役割ならびにPD-1/PD-L1阻害薬との併用効果を、実験動物モデル、培養細胞、臨床検体を用いて検討した。U3-1402はHER3に特異的に作用することで、HER3発現腫瘍細胞を特異的かつ効率的に傷害する。U3-1402により傷害された腫瘍細胞からは免疫賦活物質であるHMGB-1が強力に放出され、樹状細胞やマクロファージ、NK細胞などの自然免疫系細胞が腫瘍局所に誘導された。さらにU3-1402により腫瘍局所におけるT細胞の機能や抗腫瘍能が改善することが示され、U3-1402による免疫活性化によりPD-1/PD-L1阻害薬の治療効果が増強すると考えられる。
また、これらのU3-1402による免疫活性効果ならびにPD-1阻害薬併用効果は、PD-1阻害薬低感受性腫瘍においても認められ、U3-1402によりPD-1/PD-L1阻害薬の耐性を克服できる可能性も示唆された。さらに、過去にPD-1阻害薬治療を受けた約80例の固形がん患者の臨床検体(腫瘍組織)を用いてHER3の免疫組織染色を行ったところ、PD-1阻害薬耐性腫瘍において高頻度にHER3発現が認められることも示された。
U3-1402は、現在進行中の早期臨床試験において安全性と有効性の検証が行われている。「本研究により、今回の併用治療がさまざまな固形がんにおける将来の治療戦略の候補となることを期待している」と、研究グループは述べている。
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