難しいとされていたTregの人工的な誘導
京都大学は11月1日、新規制御性T細胞(Treg)誘導化合物AS2863619を発見し、その作用とメカニズムを明らかにすることに成功したと発表した。この研究は、同大ウイルス・再生医科学研究所 坂口志文客員教授(京都大学名誉教授・大阪大学特別教授)、三上統久同招聘研究員(レグセル株式会社研究員)、同大大学院医学研究科 成宮周特任教授(京都大学名誉教授)、アステラス製薬 赤松政彦研究員らの研究グループによるもの。研究成果は、国際学術誌「Science Immunology」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
Tregは、免疫抑制機能を持つT細胞。Tregを誘導することで自己免疫疾患や炎症性疾患を治療するという試みが世界的に興味を集めている。一方で、Tregを人工的に誘導するための手法はいまだ不十分な点が多く、さまざまな課題も残されている。特に、病気の原因となる活性化T細胞からTregを誘導するのが困難なことや、炎症性疾患の患者で増加している炎症性サイトカインの存在下でTregが誘導されにくいことは、Treg誘導による治療の有効性を高めていく上で解決すべき課題とされている。
CDK8/19阻害薬がTreg誘導性免疫抑制薬として、炎症性疾患の治療に応用できる可能性
研究グループは今回、その課題を克服するための方法を見出すために、Tregを高効率に誘導する化合物のスクリーニングを行った。まず、T細胞に免疫刺激を加えた際にTregを高効率に誘導する化合物のスクリーニングを行い、その結果得られた化合物AS2863619について詳細な検討を行い、その作用や機序を明らかにしていった。AS2863619は試験管内において、原特異的活性化T細胞を非常に高効率にTregに変換することが可能だった。また、炎症性サイトカインの存在下でもTreg誘導が可能だった。これらは従来報告のあるTreg誘導手法では難しいTreg変換であり、AS2863619がTreg誘導による治療課題を克服する優れたTreg誘導薬となる可能性が示された。
さらに、AS2863619に結合するタンパク質の解析を行い、その作用機序として、細胞内シグナル伝達分子であるCDK8およびCDK19の機能を阻害することも明らかにした。これにより、T細胞ではCDK8/19がTregへの変換を妨げ、AS2863619がその作用を打ち消すことで、Tregを効果的に誘導することが証明された。実際に、AS2863619をマウスに投与すると、免疫刺激を与えた後に抗原特異的T細胞がTregに転換されることが示された。また、Tregの増加に伴い、皮膚炎症やI型糖尿病、脳脊髄炎など、さまざまな炎症性疾患モデルの病態発症が抑制されることが明らかとなった。さらに、AS2863619による病態改善作用は、マウスの体内からTregを除去した際には認められなくなることから、化合物の作用はTregに依存していると考えられた。これらの結果から、AS2863619をプロトタイプとするCDK8/19阻害薬は、Treg誘導性免疫抑制薬として、多様な炎症性疾患の治療に応用し得ると期待される。
今回の研究成果により、Treg誘導による治療を実現するにあたって課題とされてきた上記の環境でも、CDK8/19を阻害することで、Tregを誘導し得ることが明らかになった。研究グループは、「本研究の成果を基盤とした臨床応用を目指して、最適化されたTreg誘導性免疫抑制薬の創出のための検討を継続している」と、述べている。
▼関連リンク
・京都大学 研究成果