ホジキン博士発見の神経の電気的興奮のメカニズムとは異なる
兵庫医科大学は10月28日、神経線維の活動電位における新たなメカニズムを解明したと発表した。この研究は、兵庫医療大学薬学部の神田浩里助教、兵庫医科大学解剖学の野口光一主任教授、アラバマ大学バーミングハム校のジャングオ・グー教授らの研究グループによるもの。研究成果は「Neuron」に掲載されている。
画像はリリースより
神経線維を電気が伝わるメカニズムは、生物学において非常に重要だ。これまで、ノーベル生理学・医学賞を受賞したアラン・ロイド・ホジキン博士が発見した、イカの巨大軸索を用いた研究による神経の電気的興奮のメカニズムが定説とされている。このメカニズムは現在、生物学一般、または高校生物の教科書においても紹介されている。また、このメカニズムは、活動電位が神経線維を伝わるメカニズムの説明としても広く知られており、神経科学界では変わることのない根本的なコンセンサスである。
哺乳類の有髄神経でパッチクランプ法に成功、K2Pチャネルを使用して効率よく伝導していることを発見
今回の研究では、哺乳類の有髄神経を用いて、プレッシャークランプとパッチクランプ法を組み合わせた手法で実験を行った。組み合わせた新手法により、安定して記録することができたという。結果、神経線維は電位依存性のカリウムチャネルに依存せず、「K2Pチャネル(two-pore型カリウムチャネル)」を使用して効率よく伝導していることを発見。「ランビエ絞輪」における活動電位の新たなメカニズムが明らかとなった。ランビエ絞輪とは、神経線維を覆う2つの絶縁性の鞘の間のスペースのことで、電気的興奮が隣のランビエ絞輪まで飛ぶように伝わる跳躍伝導を起こす部位である。
この現象が発見されなかったのは、イカの巨大軸索に比べて哺乳類の神経線維は500分の1ほどの大きさのため、パッチクランプ法(直接的に神経の電気活動を計測)を行うのが実験上不可能とされてきたからだ。現在でも哺乳類の神経伝達方法は50年前にイカで発見されたメカニズムを用いて説明されてきた。
今回の研究から得られた知見として、神経線維の電気的興奮のメカニズムという生物学における基礎的な仕組みを解明したことにより、今後神経科学一般に新たなメカニズムとして影響する可能性が考えられる。「今後の可能性として脱髄性疾患など神経線維の病変を起こす病気の治療や解明につながることを期待している」と、研究グループは述べている。
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