cfDNAに存在する突然変異の検出、現状では精度など課題
京都大学は10月29日、分子バーコード法と呼ばれる手法と情報解析法を組み合わせて、血中遊離DNA(cfDNA:cell-free DNA)のシークエンスデータから、がん細胞に由来する微量の突然変異(cfDNAの0.2%程度)を高精度に検出する解析手法(eVIDENCE ソフトウェア)を開発したと発表した。この研究は、同大学大学院医学研究科の水野桂博士課程学生、赤松秀輔助教、小川修教授、理化学研究所生命医科学研究センターがんゲノム研究チームの中川英刀チームリーダー、京都大学大学院医学研究科の藤本明洋特定准教授(現・東京大学大学院医学系研究科教授)らの共同研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載されている。
画像はリリースより
がん罹患者の血液中には、白血球などの正常細胞から遊離したDNAのほかに、がん細胞から遊離したDNAが存在することが知られている。がん細胞由来のDNAは微量であるために、次世代シークエンサーを用いたcfDNAの解析では、がん細胞に存在する突然変異を正確に検出することが困難な場合がある。cfDNAに存在する微量な突然変異を検出する手法はこれまでも開発されてきたが、調べられる遺伝子に制約があったり、手法間で検出される突然変異の一致率が低かったりするなどの課題があった。
新解析手法「eVIDENCE」を開発、肝臓がんで高精度を確認
こうした課題の解決に向け、今回研究グループは、分子バーコード法と呼ばれる手法を利用した。この方法では、調べたいDNA分子一つひとつに異なる配列を持ったDNA分子(分子バーコード)を付加することで、シークエンサーの配列決定時のエラーと、真の突然変異を判別することが可能となる。今回は、この手法と情報解析法を組み合わせることで、cfDNAに存在する微量のがん由来突然変異を高精度に検出する解析手法(eVIDENCEソフトウェア)を開発した。
開発した手法を検証するために、研究グループは、肝臓がん患者から採取した27個のcfDNAサンプルをeVIDENCEで解析。その結果、全部で77個の突然変異を検出した。この中から25個の突然変異を選んでそれらが本当にcfDNAに存在するのか確認したところ、全て真の変異であることが判明。さらに、cfDNAに0.2~1.0%だけ存在するわずかな突然変異も正確に検出できることが示された。
がん組織検査よりも重要な遺伝子異常を多く捉えられる可能性も
また、cfDNAとがん組織の両方の解析を行うことのできた症例が6例あったので、cfDNAとがん組織で検出された突然変異を比較した。その結果、cfDNAで26個、がん組織で16個の突然変異を検出し、がん組織で検出された16個の変異のうち、12個はcfDNAでも検出した。cfDNAだけで検出された変異は14個あり、この中には肝臓がんのドライバー遺伝子であるARID1A、NFE2L2、PIK3CAの変異が含まれていた。この結果は、eVIDENCEを用いたcfDNAの解析は、がん組織を用いた検査よりも重要な遺伝子異常をより多く捉えることが可能であることを示唆するもの。
今回の研究で開発されたcfDNAの解析手法「eVIDENCE」は、がんの種類や調べたい遺伝子の種類に制約なく応用することができる。現在、研究グループは、進行前立腺がん患者から採取したcfDNAの解析研究を進めているという。「今後、この研究成果がリキドバイオプシーによるがんゲノム医療の実現に貢献することが期待される」と、研究グループは述べている。
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・京都大学 研究成果