不規則な食事のタイミングがアレルギーに影響するのか、マウスで検証
山梨大学は10月25日、食事摂取のタイミングがアレルギー反応の強さに大きく影響することをマウス実験によって明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学部免疫学講座の中尾篤人教授、中村勇規准教授らの研究グループによるもの。研究成果は「Allergology International」に掲載されている。
画像はリリースより
花粉症やぜんそく、じんましんなどのアレルギー疾患は、ある特定の時間帯(特に夜間から明け方)に症状が出現しやすいという特徴がある。例えば、花粉症では、朝方にくしゃみ、鼻水などが起こりやすく、「モーニングアタック」と呼ばれている。研究グループは、先行研究より、生理活動の24時間性のリズム(睡眠や覚醒、ホルモン分泌など)を司る体内時計が、このようなアレルギー症状の時間による変化に関係していることを発見した。アレルギー反応の大部分はマスト細胞と呼ばれる免疫細胞が、スギなどのアレルギー物質(アレルゲン)に反応してヒスタミンなどのくしゃみや鼻水、咳、じんましんなどを誘発する化学物質を放出することによって起こる。体内時計は、マスト細胞のアレルゲンに対する感受性を、活動期は鈍く、休息期は敏感にしている。その結果、休息期にアレルゲンに曝露されるとマスト細胞が放出するヒスタミンの量が活動期よりはるかに高くなり、くしゃみや鼻水、咳、じんましんなどの反応も休息期(ヒトでは夜間、夜行性のマウスでは日中)に強くなると考えられた。
体内時計は、不眠やストレス、運動、食事の時間によって影響を受けることが知られている。例えば、夜食など不規則な時間帯での食事摂取は体内時計のリズムを乱し、肥満などを誘発させやすいことがわかっている。今回、研究グループは、アレルギー反応と体内時計との密接な関係から、不規則な食事のタイミングが、肥満だけでなくアレルギーにも影響するのではないかと考え、1)餌を24時間自由に与える(マウスは夜行性なので主に夜間に餌を摂取するが、昼間にも少し摂取する)マウス、2)餌を活動期(夜行性マウスでは夜間)の4時間だけ与えるマウス、3)餌を休息期(夜行性マウスでは日中)に4時間だけ与えるマウスの3群に分けて実験を行った。
不規則な食事タイミングでマスト細胞の体内時計が狂いPCA反応増強
マウスを2週間飼育した後、ヒトにおけるじんましん反応のモデル(PCA反応)を、それぞれの群で、日中(午前10時)と夜間(午後10時)に引き起こした。なお、マウスが摂取した餌の量は3群間でほとんど変わらず、体重変化も3群間でほぼ同じだった。PCA反応の強さは、1)と2)の群では、休息期に強く活動期に弱い反応を示した。これは以前に中尾教授らが見出した結果と同じものだ。一方、3)の群では、休息期も活動期も強い反応が見られたという。またマスト細胞の体内時計のリズムを調べると、3)の群では1)2)の群が示す本来見られる正常なリズムとは異なるリズムが刻まれていたという。これらの結果から、不規則な食事のタイミングは、体内時計のリズムを変えてしまい、その結果、規則的な食事のタイミングをしている時とはアレルギー反応の出方が変化。本来アレルギー症状が出にくい活動期でも、症状が強くなってしまった。
今回の研究結果から食事摂取のタイミングは、アレルギー反応の強さや出やすい時間帯を変化させる因子の1つであることが明らかになった。したがって、花粉症やぜんそく、じんましんなどのアレルギー患者を適切に診療し症状をコントロールするためには、食事摂取のタイミング(食事の時間や夜食の有無など)を念頭に置く必要があることが示唆された。
中尾教授らは臨床的な経験から、食事のタイミングを見直すだけでアレルギー症状が緩和できる患者が全体の2割程度はいるのではないかと推測しているという。患者の日常生活情報を臨床に生かす試みは、健康デバイスやビッグデータと相性が良く将来発展が期待される医療分野のひとつだ。中尾教授らは、甲府市や企業と協力して、食事のタイミングと花粉症などのアレルギー症状との関係を、アプリなどを用いて解析する研究を計画中だとしており、今後このような研究を更に進めることでアレルギー診療の新しい大きな進歩が期待される。
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・山梨大学 プレスリリース