MMEJ機構を使ったゲノム編集技術、「MHcut」法を新開発
京都大学iPS細胞研究所(CiRA)は10月25日、新たなツール「MHcut」法を開発し、ゲノム編集技術と応用させて、ヒトiPS細胞から遺伝子疾患の病態を再現することに成功したと発表した。この研究はCiRA未来生命科学開拓部門のジャニン・グラジュカレク大学院生、クヌート・ウォルツェン准教授らと、カナダのマギル大学との共同研究によるもの。研究成果は、「Nature Communications」でオンライン公開されている。
これまで、DNAの自然修復機構は、相同組換え修復(homology directed repair:HDR)と非相同末端結合(non homologous end joining:NHEJ)が主に研究されていた。研究グループは第3の修復機構、マイクロホモロジー媒介末端結合(Microhomology-mediated end joining:MMEJ) に着目し、研究を進めてきていた。MMEJは、「マイクロホモロジー」と呼ばれるDNA切断後の末端部分の短い配列(5~25塩基対)を認識して修復する機構。ゲノム編集技術CRISPR/Cas9はHDR、NHEJ、MMEJのどの機構とも組み合わせて使うことができるが、これまでの研究で、MMEJは他の2つに比べ、より正確にゲノム編集できることがわかってきていた。
小児など患者の細胞入手が困難な場合のモデル作製手法に
今回研究グループは、まず、ヒトの遺伝子欠損変異に関わるマイクロホモロジーを探し出すため、新たなツール「MHcut」を開発。MHcutはヒトゲノムデータと遺伝子の欠損や変異のデータベースを元に、DNA分子の両末端情報を整理し、遺伝子欠損変異に関わるマイクロホモロジーを選び出すことができる。MHcutで特定されたマイクロホモロジーは、ヒトの体で起こりうる遺伝子欠損変異のうちの57%を占めていることがわかった。
研究グループは次に、ヒトiPS細胞を用い、MMEJ機構を使ったゲノム編集技術CRISPR/Cas9を使って、遺伝子変異をもつ状態のiPS細胞を作製。筋ジストロフィーの代表的な原因遺伝子であるDYSF、赤血球産生に重要なヘム代謝系に関わる遺伝子であり、光線過敏症の原因遺伝子として知られるFECH遺伝子にそれぞれ変異を導入した。DYSF遺伝子に変異を導入したヒトiPS細胞は筋細胞に、FECH遺伝子に変異を入れたヒトiPS細胞は赤血球に分化させ、それぞれ患者の細胞と比較。すると、作製した細胞は患者の細胞と同じ表現型を示し、細胞の機能も同等であることが明らかになった。
患者の細胞から作製された疾患特異的iPS細胞は、細胞の入手に限界がある。今回、MHcut法とゲノム編集技術を用いて、ヒトiPS細胞から遺伝子疾患の病態を再現することが可能となった。研究グループは同手法について、「患者の細胞を使うことが難しい場合に病態モデルを作製する方法として、今後期待ができる」と、述べている。
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