高齢化に伴い患者数の増加が予想される心不全
名古屋大学は10月23日、プロテインキナーゼN(PKN)が関与した心不全の新規メカニズムを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科循環器内科学の坂口輝洋客員研究者、竹藤幹人助教、室原豊明教授、同大神経情報薬理学の天野睦紀准教授、貝淵弘三教授らの研究グループによるもの。研究成果は「Circulation」に掲載されている。
日本において、心疾患による死亡は悪性新生物(がん)に次いで2番目に多く、心不全による死亡数は心疾患の内訳の中で最も多い。また、高齢化に伴い、さらに患者数の増加が予想されている。心不全治療は、β遮断薬やアンギオテンシン受容体阻害薬の有効性が報告されているが、1980年代以降、治療薬の目立った進歩がなされていないのが現状であり、心不全治療薬の新規開発が期待されている。
PKNがMRTFAのリン酸化を介してアクチンとの結合を阻害、SRFを介した心不全関連遺伝子の発現をもたらす
研究チームは、心不全モデルマウスを作成し、マウスの心筋でPKNが活性化していることを明らかにした。次に、PKNノックアウトマウスを作成し、心不全を誘導する手術を行うと、心臓の肥大化や心臓の線維化が通常のマウスと比較して抑制されていたことがわかったという。生化学実験では、アクチン結合性転写活性因子MRTFAのアクチンに結合する部位がPKNによりリン酸化され、アクチンとの結合を阻害していることを見出した。続いて、心不全モデルの心臓を用いた免疫沈降法では、PKNノックアウトマウスで心不全によって促進されたMRTFA/SRFの複合体の形成を抑制し、SRFと心不全関連遺伝子のプロモーターとの結合が阻害されることが示された。同研究によりPKNはMRTFA/SRFを介して心不全の病態に関わることが示された。
今回の研究により、PKNがMRTFAのリン酸化を介してアクチンとの結合を阻害し、SRFを介した心不全関連遺伝子の発現をもたらすことが証明された。近年、キナーゼ阻害薬は高い選択性が得られ、創薬のターゲットとしても注目されており、メカニズムの解明による新規創薬の可能性が期待される、と研究グループは述べている。
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・名古屋大学 プレスリリース