「DREAMプロジェクト」と名付け、名城大、薬経連、グッドサイクルシステムが連携して開発を進める。2社4薬局が保有する約6万人の薬歴、レセプトデータをもとに、より良いシステムの仕組みを検討している段階にある。年内に基本的なシステム構造や解析方法を確立した上で、来年から4社10薬局で試験運用を開始して有用性を検証する計画だ。
新たに構築するシステムは、匿名化された薬局の薬歴やレセプトデータをRWDとして収集し、クラウド上のサーバーに蓄積。薬歴やレセプト情報をAIなどで自動的に解析し、薬剤師がチェックすべき事項を実施しているかどうか把握して、薬局にフィードバックするもの。漏れがある場合、電子薬歴画面などを通じて知らせる。
具体的には、非ステロイド性抗炎症薬、利尿薬、ACE阻害薬またはアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)の3剤併用で急性腎障害の発症リスクは高まることが知られている。年齢が高く、慢性腎不全の患者ではリスクが高まるため、薬局薬剤師は疑義照会などを行い、事前に阻止する必要がある。こうしたチェックの漏れを検出して知らせるなどの活用を想定している。添付文書に明記された定期的な検査が実施されていない場合には、副作用が発生しても医薬品副作用被害救済制度の対象にならない可能性がある。そうした症例もゼロにしていきたい考えだ。
大津氏は「新たなシステムは、網羅的に注意喚起するものではなく、薬剤師がすべきことを実施したかどうかを確認するシステム。どうしても漏れは生じてしまうため、それを把握し、漏れが放置されないようにする。すべきことを着実に行うことは、薬局業務の質保証にもつながる」と強調する。
■軽い副作用発掘
一方、研究グループは、「薬歴は宝の山」として、収集したRWDを解析して新たなエビデンスを創出する取り組みも進める。ターゲットは軽度な副作用だ。重大な副作用は、自発報告制度を通じてデータ化されやすいのに対し、軽度な副作用は明確化されにくい。
医薬品情報学助教の酒井隆全氏は、「QOLの低下など、軽度な副作用は自発報告では集積されにくい。薬局で対応するような患者さんが、少し調子が悪くて困っているという程度の副作用はデータ化されない。水面下に埋もれている可能性があり、薬歴に記述があるかもしれず、埋もれている副作用を掘り起こしたい」と語る。
便秘や下痢、不眠、食欲不振などQOL低下に関わる副作用や不定愁訴を検出したい考え。言葉と副作用の関係性を示した辞書やAIを活用し、薬歴の記述内容から解析する。「少し寝つきが悪い」といった記述が薬歴にあれば、軽度の不眠として捉え、以前に服用していた薬による影響を解析する予定だ。
大津氏は「単施設では薬剤師が『この薬ではこんな症状が起こりやすい気がする』と思っている程度でも、多施設のRWD解析で明確にできる」と語る。軽度な副作用のエビデンスを新たに創出することで、便秘気味の患者には便秘を引き起こす薬は避けるなど、個々の患者に応じた薬剤選択が可能になるという。
将来的には、日常業務を支える仕組みとして、電子薬歴への搭載を期待する。現状では、RWDとして解析しにくいデータ保存構造になっている電子薬歴もあるため、今後は電子薬歴のデータ保存構造化の推進や業界全体での標準化を呼びかけたい考えだ。薬歴の情報を有効活用するために、「多忙な日常業務の中で、薬剤師が効率的に十分な記録を残せる電子薬歴の仕組みについても検討する必要がある」としている。