医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 世界初、Odf2遺伝子欠損による不妊症をマウスで発見、治療に成功-千葉大

世界初、Odf2遺伝子欠損による不妊症をマウスで発見、治療に成功-千葉大

読了時間:約 2分38秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2019年10月23日 AM11:15

明らかにされていなかったOdf2遺伝子と不妊症の関係

千葉大学は10月18日、マウスにおいてOdf2遺伝子欠損による新しいタイプの不妊症を発見し、その治療に成功して、発症の仕組みを明らかにしたと発表した。この研究は、同大未来医療教育研究センターの年森清隆特任教授と千葉大学医学研究院機能形態学・生殖生物医学の伊藤千鶴講師らが、、がん研究会がん研究所、およびサーモフィッシャー・サイエンティフィックの協力で行われたもの。研究成果は「Scientific Reports」に掲載されている。


画像はリリースより

精子の頭部と頸部(頭部と尾部を結合する鞭毛の基部)の間が離断する、精子頭部離断()は1949年にウシで初めて発見され、その後、ヒトを含めて哺乳類に広く存在していることが報告され、DDSが原因で不妊症に至る症状は「DDS症候群」と呼ばれている。しかし、DDS症候群がヒトの不妊症に占める割合は不明であり、また発症メカニズムもわかっていない。

最新の世界保健機構のヒト精液診断指針では、頭部と鞭毛が離断した精子は「死んだ精子」と定義されており、不妊治療をはじめとするヒト生殖補助医療には使うことができなかった。これまでの研究で、哺乳類の精子の鞭毛には、細胞分裂に関係する中心体タンパク質と細胞骨格タンパク質である外側粗大線維鞘と呼ばれる特有の構造があることが知られており、それらのタンパク質合成に関わるOdf2遺伝子が着目されてきた。しかし、この遺伝子と不妊症の関係については、これまで明らかになっていなかった。

Odf2タンパク質量の減少によって起こる不妊症を「Odf2-DDS」と命名

研究グループは、Odf2遺伝子が完全に欠損したホモタイプのマウスを作る過程で、キメラマウスから、Odf2遺伝子が半分欠損したヘテロタイプのマウス(Odf2ヘテロマウス)を作成。このOdf2ヘテロマウスの雄は完全な不妊で、正常な精子は存在していなかったが、その精液には、動かない頭部と動く鞭毛が混在していたことから、これまで報告されていた完全に死んだ頭部離断(DDS)による不妊症とは異なる、新しいタイプの不妊症があるのではないか、という仮説を立てた。そこで、キメラマウスのオスの精子から動かない頭部を顕微授精して作成したOdf2ヘテロマウスの不妊症の仕組みを解明するために、生化学的にタンパク質量を定量的に解析する方法(定量的ウェスタンブロッティング法)によって、精子鞭毛を構成するタンパク質(Odf2タンパク質)の量を定量的に調べた。その結果、Odf2ヘテロマウスではOdf2タンパク質の量が減少しており、他の鞭毛タンパク質は減少していないことが明らかになった。このことからOdf2ヘテロマウスでは、Odf2タンパク質の量が減少すること()によって、精子鞭毛の頸部と中間部の結合が弱くなるために精子頭部離断(DDS)が起こり、不妊症が発症していると考えられた。さらに、この結果から、新しいタイプの不妊症であることが証明された。同研究グループは、Odf2遺伝子欠損によるOdf2タンパク質量の減少によって起こる不妊症を「Odf2-DDS」と命名した。さらに、Odf2ヘテロマウスの精子を詳細に調べたところ、Odf2-DDSの離断した頭部は全く動くことができないものの、生存していることが確認でき、この不妊症がこれまでのDDSとは異なることを示す確定的な証拠も得たという。

研究グループはマウス実験で、Odf2遺伝子が半分だけ欠損したヘテロ個体では、オス・メスともに生存でき、成長したことを確認した。メスでは何も起こらないが、ヘテロのオスでは精巣の精子形成過程に障害が起こり、精子にハプロ不全が起こった。その結果、精子頭部離断が起こり、不妊となった。しかし、マウスにおいてOdf2-DDSによる不妊症は、治療可能であることを示すことができた。マウスとヒトのOdf2遺伝子は96%同じで、マウスOdf2-DDSに似たようなDDS症候群は、ヒトでも報告されている。

研究グループは「今回、マウスにおいてOdf2-DDSによる不妊症を治療することができた。将来、ヒトにおいてもOdf2-DDSが原因とされる不妊症が見つかれば、顕微授精法によって治療の可能性が開けると期待される」と、述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 前立腺がん、治療決定時SDMが患者の治療後「後悔」低減に関連-北大
  • 糖尿病管理に有効な「唾液グリコアルブミン検査法」を確立-東大病院ほか
  • 3年後の牛乳アレルギー耐性獲得率を予測するモデルを開発-成育医療センター
  • 小児急性リンパ性白血病の標準治療確立、臨床試験で最高水準の生存率-東大ほか
  • HPSの人はストレスを感じやすいが、周囲と「協調」して仕事ができると判明-阪大