GD3とGD3 syn. mRNAの発生/抑制スイッチ
中部大学は10月18日、皮膚などにできるがんの一種「メラノーマ(悪性黒色腫)」の細胞膜表面に現れる「酸性スフィンゴ糖脂質(GD3)」とその合成酵素遺伝子の「GD3合成酵素遺伝子(GD3 syn. mRNA)」を、正常細胞の「メラノサイト」に発生させたり抑制させたりするスイッチを初めて発見したと発表した。この研究は、同大生命健康科学部生命医科学科の古川圭子教授と竹内理香助手(現・関西学院大学理工学部生命科学科助手)らの研究グループによるもの。研究成果は「Scientific Reports」に掲載されている。
画像はリリースより
皮膚に紫外線が当たると、ケラチノサイトからさまざまな物質が生み出される。そのひとつが「メラノサイト刺激ホルモン(α-MSH)」で、これがメラノサイトに作用するとメラニンが生合成され、ケラチノサイトに分配される。その結果、ケラチノサイトではメラニンが紫外線によるDNAの損傷を防ぐ。しかしケラチノサイトからはα-MSH以外に「炎症性サイトカイン」も分泌され、皮膚の炎症反応を引き起こす。持続的な炎症反応(慢性炎症)は発がんの誘因になる。
GD3 syn. mRNAで細胞の前がん状態を予想できる可能性
今回の研究で、炎症性サイトカインの一種である「TNFα」がメラノサイトにがん特有のGD3とGD3 syn. mRNAを作り出す働きがあることがわかった。一方でTNFαと同じケラチノサイトから分泌されるα-MSHがメラノサイトに作用すると、細胞内情報伝達物質(セカンドメッセンジャー)であるcAMPのシグナル経路が起動してGD3 syn. mRNAの発現を抑制することも確認。ケラチノサイトから分泌されるTNFαはがん細胞にみられる物質を発現し、α-MSHは逆に発現を抑制するという正反対の性質を持っていることがわかったという。まとめると、通常はケラチノサイトが出すα-MSHがメラノサイト内でGD3 syn. mRNAの発現スイッチをOFFにしており、過度に紫外線を浴びるとTNFαの働きが勝ってスイッチをONにすると考えられ、スイッチのON/OFFは、cAMPとTNFαのバランスで決まることになる。すでにがん化したメラノーマの細胞ではスイッチが常にONになっていることも判明したことから、GD3 syn. mRNAをモニタリングすれば細胞の前がん状態を予想できる可能性があることがわかった。
メラノーマと異なり、小児がんの一種である神経芽細胞腫や悪性度の高い乳がんでは、GD2という酸性スフィンゴ糖脂質が発現する。そのためGD2は現在、抗体医薬開発の標的分子としても注目されている。GD2の生合成過程にはGD3合成酵素が必要になる。したがって、これらのがんに関しても、前がん状態を知るためにGD3 syn. mRNAのモニタリングは有用となる可能性がある。研究グループは、「近年「エクソソーム」という細胞外分泌小胞が注目されているが、今後、エクソソーム中のGD3 syn. mRNAを検出することで、このmRNAのモニタリングが可能になる」と、述べている。
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