スマホなどで近距離無線通信に使われるRFID技術を応用
京都大学は10月17日、微小肺がんに対するマイクロチップを用いた術前マーキング方法を開発し、世界で初めて患者への臨床使用を開始したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科呼吸器外科の伊達洋至教授、佐藤寿彦准教授(研究当時、現:福岡大学准教授)、豊洋次郎助教、株式会社ホギメディカルらの研究グループによるもの。同技術の臨床使用は、2019年9月27日に同大学医学部附属病院で始まった。
画像はリリースより
現在、肺がんの手術として主流である低侵襲な胸腔鏡手術では、小さな孔から内視鏡を用いて手術するため、触知が困難な微小かつ非浸潤性腫瘍の部位を正確に同定することは困難とされてきた。同大では、術前に気管支鏡ガイド下に肺の表面を染色し術中の腫瘍の位置を同定する方法を行ってきたが、胸腔鏡手術では、肺を虚脱・変形させるほか、牽引などの手術操作によっても臓器変形をきたしやすく、胸膜から距離のある深部病変では、腫瘍の正確な位置をとらえにくいことがわかってきた。そのため、スマートフォンやプリペイドカードに使用され、近距離無線通信の用途で普及しているradiofrequency identification(RFID)技術を応用し、肺表面から深い場所に位置する病変に対しても正確な位置同定を可能とする新しい方法を開発した。
術中に病変位置同定、他領域で有効の可能性
開発された新たな手術方法の手順は次の通り。1)手術前にRFIDマイクロチップを、気管支鏡用デリバリーシステムを用いて経気管支的に病変の近くに留置する。2)全身麻酔下にアンテナを患者の胸腔内に挿入し、肺内に留置されたRFIDマイクロチップへ近づけると、検知システムが病変の位置を表示する。3)外科医はアンテナの位置と表示を参考に微小肺がんを切除する。
開発されたマイクロチップは、色素を肺表面から確認する従来法とは異なり、肺内で狙った部位に固定することができるので、腫瘍が肺表面から離れた部位に存在していても、深さを含めた正確な病変位置がわかるという。早期肺がん患者において不要なCT検査による経過観察・放射線曝露を削減し、より低侵襲かつ患者の肺機能を温存する小さな切除、すなわち正確な楔状切除術の実現が可能となる。比較的安価な装置で人体に無害な弱電機器であり、患者や外科医が被曝することもなく手術を安全に行うことができる。
今後は、同大、福岡大学をはじめとした多施設共同での臨床研究を行い、このRFIDマイクロチップを利用した肺がん手術のより良い適応を見定めて普及を目指す予定。また、このマーキング方法は呼吸器外科領域だけでなく、乳腺外科、消化管外科などの他領域においても有効である可能性が示されている。海外でも注目されている技術であり、研究グループは、日本発の医療機器として世界への普及も目標としている。
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・京都大学 研究成果