KCC2の機能が高まると、GABAの作用は興奮性から抑制性に変化
浜松医科大学は10月15日、発達に伴いγ-アミノ酪酸(GABA)の作用が興奮性から抑制性に変化するのには、カリウム-クロライド共役担体(KCC2)のリン酸化による機能制御が関わっていることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大神経生理学講座の渡部美穂助教、福田敦夫教授、イェール大学医学部のKristopher T. Kahle博士らのグループによるもの。研究成果は、米国科学振興協会の科学雑誌「Science Signaling」で公開されている。
画像はリリースより
脳内の主要な抑制性伝達物質であるγ-アミノ酪酸(GABA)は、発達期には興奮性伝達物質として働いている。発達に伴いKCC2の機能が高まることにより、GABAの作用は興奮性から抑制性に変化するが、そのメカニズムは明らかになっていなかった。
発達期の適切なKCC2リン酸化制御が、GABAの抑制作用や生存に必須
研究グループは、リン酸化による KCC2 機能制御の役割について個体レベルで明らかにするため、KCC2の906番目と 1007番目のスレオニン残基(以下、Thr906およびThr1007)をグルタミン酸に置換し、発達に伴う脱リン酸化を妨げた遺伝子改変マウス(以下、Kcc2E/Eマウス)を作製し解析を実施した。
Kcc2E/Eマウスは生後10時間前後で死亡。KCC2のクロライドイオンの細胞外へのくみ出し能力が低下しており、痛覚および接触刺激によりてんかん発作が認められ、死亡前には自発発作の頻度の増加がみられた。また、脊髄第4頸神経より記録される自発性の呼吸リズムがみられず、第2腰神経より記録される歩行リズムが乱れていた。さらに、スパイン形成は正常に認められたが、中隔、視床下部、海馬、大脳皮質の神経分布に異常が確認された。これは、発達期にKCC2のThr906とThr1007のリン酸化が適切に制御されることが、抑制性GABA伝達の形成、神経発達および生存に必須であることを示唆している。
大人の脳でもKCC2が正常に機能しないと、細胞内クロライド濃度が高くなり、GABAによる抑制作用が低下する。てんかんや自閉症、統合失調症などのさまざまな精神疾患では、神経回路の興奮性と抑制性のバランスが崩れることが病因のひとつであることがわかってきていることから、KCC2の機能低下によるGABAの抑制力の低下が関与している可能性が考えられる。研究グループは、「今回の発見により、KCC2の機能はリン酸化により制御されることが明らかになったため、KCC2のThr906とThr1007のリン酸化部位をターゲットとした新薬の開発が期待される」と、述べている。
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・浜松医科大学 報道発表