医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > インフルエンザウイルスに対するmtDNAを介した新しい防御機構を解明-東大医科研

インフルエンザウイルスに対するmtDNAを介した新しい防御機構を解明-東大医科研

読了時間:約 2分55秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2019年10月17日 AM11:45

RNAウイルスがmtDNAを細胞質中へ放出させる仕組みは?

東京大学は10月15日、インフルエンザウイルスに対する新しい防御機構を解明したと発表した。この研究は、同大医科学研究所感染症国際研究センターウイルス学分野の一戸猛志准教授、森山美優大学院生(研究当時)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Communications」のオンライン版で公開されている。


画像はリリースより

細胞内のDNAまたはRNAセンサーがウイルスの核酸を認識することが、細胞がウイルスの侵入を感知する主な仕組みだ。単純ヘルペスウイルス1型やワクシニアウイルスなどのDNAウイルスが細胞に感染すると、細胞内のDNAセンサーであるcGASが細胞内のウイルス二本鎖DNAを認識することにより、cGAMPを合成し、STINGを介してインターフェロンを誘導する。興味深いことにDNAウイルスではない水疱性口内炎ウイルス(VSV)、脳心筋炎ウイルス(EMCV)などのRNAウイルスが細胞に感染した場合にも、 依存的にインターフェロン応答が誘導されることが知られていた。VSVなどのRNAウイルスが細胞に感染するとミトコンドリアDNA(mtDNA)が細胞質中へ放出されるため、この細胞質中のmtDNA がcGAS依存的なインターフェロン応答を誘導していると考えられている。しかしRNAウイルスがどのようにしてmtDNAを細胞質中へ放出させているのかは不明だった。

mtDNA放出<DNA センサー<IFN誘導<ウイルスの増殖抑制

今回研究グループは、インフルエンザウイルス感染細胞では細胞質中にmtDNAが多く検出されることを見出した。インフルエンザウイルスの感染によって細胞質中にmtDNAが放出されるメカニズムを解析したところ、インフルエンザウイルスが細胞に侵入するときや、細胞から出芽するときに必要な、ウイルスのM2タンパク質が、mtDNAの放出を引き起こしていることを突き止めた。このM2タンパク質は、プロトン選択的なイオンチャネルタンパク質であり、このイオンチャネル活性を欠損した変異型M2タンパク質は、mtDNAの放出を起こさないことも確認した。また、カルシウムイオンチャネルとして機能することが知られているEMCVの2Bタンパク質を細胞に発現させると、それだけでmtDNAが細胞質中へ放出されることも明らかとなった。

インフルエンザウイルスやEMCVの感染によって、細胞質中へ放出されたmtDNA はミトコンドリア転写因子A(TFAM)が結合した状態であると考えられるものの、細胞内DNAセンサーであるcGASやDDX41は細胞質中mtDNAを認識したあと、その下流のSTINGを介してインターフェロンβを誘導していることがわかった。このSTING依存的なシグナルは、ギャップ結合を介してウイルス感染細胞と隣接する周囲の細胞へ伝達されることにより、ウイルスに感染していない細胞においてもインターフェロン応答を増幅させていることも明らかとなった。さらにSTINGを欠損したマウスでは、インフルエンザウイルス感染5日目の肺のウイルス量が、野生型マウスと比較して有意に増加していたことから、このSTING依存的なインターフェロン応答が生体内でインフルエンザウイルスの増殖を抑制するのに必須であることも明らかとなった。さらにインフルエンザウイルスのNS1タンパク質は、そのRNA結合ドメイン(38番目のアルギニンと41番目のリジン)を介してmtDNAと相互作用することにより、細胞内のDNAセンサーによるmtDNAが検出されることを逃れていることも明らかとなった。

今回の研究成果は、未解明であったRNAウイルスのmtDNA放出機構を明らかにしただけでなく、細胞内のDNAセンサーがRNAウイルスの感染時にも重要な役割を果たしていることを示した重要な知見。これまでの常識ではインフルエンザウイルスに代表されるRNAウイルスの感染防御には、細胞内のRNAセンサーが重要な役割を果たしていると考えられてきたが、今後は DNA センサーの役割についても考慮する必要がある。インフルエンザウイルスの感染によって放出されたmtDNAが細胞内のDNAセンサーを介してインターフェロン応答を誘導しているというこれらの知見は、インフルエンザワクチンの効果を高めるようなアジュバントの開発などにつながると期待される。さらに「今回の研究成果は、インフルエンザウイルスのNS1タンパク質が宿主の自然免疫システムを回避するための新しい戦略を明らかにしたものであり、インフルエンザウイルスが効率よく増殖するメカニズムの解明やインフルエンザウイルスの病原性発現機構の解明にも役立つと期待される」と、研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 「働きすぎの医師」を精神運動覚醒テストにより評価する新手法を確立-順大ほか
  • 自己免疫疾患の発症、病原性CD4 T細胞に発現のマイクロRNAが関与-NIBIOHNほか
  • 重症薬疹のTEN、空間プロテオミクス解析でJAK阻害剤が有効と判明-新潟大ほか
  • トリプルネガティブ乳がん、新規治療標的分子ZCCHC24を同定-科学大ほか
  • トイレは「ふた閉め洗浄」でもエアロゾルは漏れる、その飛距離が判明-産総研ほか