過栄養下で活性する脂肪酸伸長酵素「Elovl6」に着目
筑波大学は10月11日、肝臓のインスリン感受性の制御に、Elovl6を介したセラミドの脂肪酸鎖長(炭素数)の制御が関与していることを発見し、肝臓でElovl6を阻害することで、インスリン作用を阻害する脂質の蓄積を抑制し、脂肪肝においてもインスリン感受性が増す、すなわちインスリン抵抗性になりにくくすることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学医療系の島野仁教授、松坂賢教授、高橋智教授、滋賀医科大学動物生命科学研究センターの依馬正次教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Hepatology」にAccepted Article versionが公開されている。
画像はリリースより
非アルコール性脂肪性肝疾患(non-alcoholic fatty liver disease:NAFLD)は、メタボリックシンドロームの肝の表現型として知られている。NAFLDがあるとインスリンが効きにくくなる「インスリン抵抗性」や2型糖尿病になりやすいとされているものの、その発症メカニズムは完全には解明されていない。同研究グループはこれまでに、過栄養が生活習慣病を引き起こすメカニズムを、脂肪酸合成系に着目して研究を行ってきた。パルミチン酸(炭素数16)からステアリン酸(炭素数18)への伸長を触媒する酵素「Elovl6」が過栄養状態で活性化することや、Elovl6を欠損させたマウスでは脂肪酸の組成が変化し、肥満や脂肪肝のままでもインスリン抵抗性が発症しにくいことを示してきたが、Elovl6を介して作られインスリン抵抗性を惹起する脂質の解明はできていなかった。
インスリン抵抗性に関わる脂質分子「C18:0-セラミド」同定
今回の研究ではまず、Elovl6を肝臓で特異的に欠損させたマウス(肝臓特異的Elovl6欠損マウス)を作製。このマウスに高炭水化物を摂食させたり、肥満や脂肪肝を発症するモデルマウス(ob/obマウス)と交配させたりすると、インスリン感受性が亢進すると判明した。肝臓特異的Elovl6欠損マウスで、網羅的に肝臓の遺伝子発現を解析すると、このインスリン感受性の亢進には、脂肪滴膜上に局在する中性脂肪の加水分解酵素「Pnpla3」の発現低下も寄与していることがわかった。
次に、Pnpla3の量を変化させた肝臓特異的Elovl6欠損マウスで、網羅的に肝臓の脂質を分析すると、脂質は減少しており、インスリン感受性と負の相関を示す脂質分子種として、炭素数18のステアリン酸(C18:0)を有するセラミド(C18:0-セラミド)が特定された。セラミドはプロテインホスファターゼ2A(PP2A)と呼ばれる、脱リン酸化酵素を活性化してインスリン作用を阻害することが知られていたが、ヒト肝がん由来の細胞株を用いた解析から、C18:0-セラミドが「I2PP2A」(Inhibitor 2 of PP2A)と呼ばれる内因性のPP2A阻害因子に結合し、I2PP2AをPP2Aから解離させることで、PP2Aを活性化させ、インスリン感受性を低下させるメカニズムが明らかとなった。
今回の研究により、肝臓におけるElovl6の発現や活性の変化が、過栄養や脂肪肝に伴うインスリン感受性の制御に重要であることが示唆された。今今後、肝臓におけるElovl6の阻害やセラミドの脂肪酸の質の管理による、脂肪肝や糖尿病の新しい予防法・治療法の開発が期待される。
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