約8万6,000人を20年追跡、海藻摂取の頻度と疾患リスクを調査
国立がん研究センターは10月10日、国内の9つの保健所管内で、平成2年(1990年)と平成5~6年(1993~94年)に40~69歳だった男女約8万6,000人を約20年間追跡した調査から、海藻摂取と脳卒中・虚血性心疾患発症リスクとの関連を調べ、その結果を発表した。この研究は、同センターの、社会と健康研究センター予防研究グループの多目的コホート(JPHC研究)によるもの。研究成果は「The American Journal of Clinical Nutrition」に掲載されている。
画像はリリースより
海藻は、日本を含む東アジアでよく食べられている食品で、食物繊維、カリウムやタンパク質などが含まれている。これまで動物を用いた研究では、海藻の成分が血圧を低下させることや、血清脂質を改善させることなどが報告されている。しかし、人を対象にした研究では、海藻の摂取と脳卒中や虚血性心疾患発症との関連は明らかになっていなかった。
研究では、全国9つの保健所管内に在住だった40~69歳の男女のうち、循環器疾患やがんの既往がなく、食事アンケート調査に回答した8万6,113人(男性4万0,707人、女性4万5,406人)を約20年間追跡した調査に基づいて、海藻摂取と脳卒中・虚血性心疾患発症リスクとの関連を調べた。対象保健所は、平成2年(1990年)の岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、平成5~6年(1993~94年)の茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古(呼称は2019年現在)。
「海藻を毎日食べる」グループで、虚血性心疾患の発症リスクが大幅減
食事アンケート調査の中で、海藻の摂取頻度に関する回答から、対象者を「ほとんど食べない」、「週に1~2日」、「週に3~4日」、「ほとんど毎日食べる」の4つのグループに分け、その後の脳卒中および虚血性心疾患発症との関連を男女別に検討した。約20年間の追跡期間中に、4,777人が脳卒中を発症し、1,204人が虚血性心疾患を発症した。海藻を「ほとんど食べない」グループと比較して、海藻を「ほとんど毎日食べる」グループの虚血性心疾患の発症リスクは、男性24%、女性44%低いことが明らかになった。しかし、脳卒中(脳梗塞、脳出血およびクモ膜下出血)については、海藻摂取との関連は見られなかった。
今回の研究成果は、海藻摂取が男女の虚血性心疾患の発症リスク低下と関連することを示した、世界で初めての報告となる。これまでに、女性において海藻摂取と脳卒中の死亡リスクの低下との関連が報告されていたが、循環器疾患の発症との関連を、年齢や海藻以外の食品の摂取頻度、生活習慣を調整して検討した報告は、同研究が初めてだ。海藻の摂取が虚血性心疾患発症リスクの低下と関連した理由として、海藻に含まれる食物繊維による血清脂質の改善や、タンパク質による血圧降下作用などが考えられる。
海藻は、欧米ではなじみの薄い食品だが、近年では、移住などによる民族の多様化により、食文化の多様性も広がってきていることから、今後は国内外において、海藻が疾患予防に役立つ可能性が考えられる。「海藻と疾患リスクに関する疫学研究はまだ少なく、海藻の健康全体に対する影響についての研究成果を蓄積していく必要がある」と、研究グループは述べている。
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・国立がん研究センター