子宮頸がん細胞のEMTや転移におけるRhoEの役割と機能を検討
弘前大学は10月4日、低分子量Gタンパク質であるRhoEが子宮頸がん細胞の上皮間葉転換を抑制する機能を有すること、さらに、その機能メカニズムの一端を明らかにしたと発表した。この研究は、同大農学生命科学部の西塚誠准教授の研究グループによるもの。研究成果は、国際科学誌「International Journal of Molecular Sciences」 に掲載された。
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がん細胞の原発巣からの転移には、原発巣からの離脱、間質への浸潤、血管内への侵入、標的臓器への生着と再増殖、といった多くプロセスが非常に複雑かつ精緻に制御されていると考えられている。そのため、がん細胞の転移のメカニズムを理解するには、それぞれのプロセスにおいてどのような遺伝子が、どのようなメカニズムで働いているのか、明らかにしていくことが重要である。転移のプロセスの初期に起こる上皮間葉転換(Epithelial Mesenchymal Transition:EMT)は、上皮細胞の性質をもったがん細胞が、サイトカインなどの刺激により、より移動能が高い間葉系細胞の性質に変化する現象。がん細胞の転移や抗がん剤に対する抵抗性に寄与すると考えられているが、その制御メカニズムについては未だ不明な点が多く残されていた。
低分子量Gタンパク質「RhoE」は、アクチン細胞骨格の制御を介して細胞の運動などに寄与することが知られている。複数のがん細胞において、浸潤や転移との関わりが報告されているが、子宮頸がん細胞のEMTや転移における役割と機能についてはこれまでわかっていなかった。
RhoEはRhoAの働きを弱めることで子宮頸がん細胞のEMTを抑制
研究グループは今回、子宮頸がん細胞の転移の分子機構を明らかにするために、EMTにおけるRhoEの役割と機能について検討した。まずEMT過程におけるRhoEの発現変化を調べたところ、サイトカインの1つであるTGF-βの添加によりEMTを誘導した子宮頸がん細胞において、RhoEの発現が増加することがわかった。次に、EMTにおけるRhoEの役割について検討。細胞形態ならびにEMTに関連する遺伝子の発現を検討した結果、RhoEの発現を抑制し働きを弱めたがん細胞では、コントロールのがん細胞に比べ、EMTが促進されていることが明らかになった。これらの結果から、RhoEは子宮頸がん細胞のEMTを抑制する役割を持つことが示唆された。
最後に、RhoEがどのような分子メカニズムによりEMTを制御するのか検討を行った。EMTの過程では、RhoEと同じ低分子量Gタンパク質に属するRhoAが重要な働きをしていることが知られている。異なる細胞を用いた検討から、RhoEはRhoAの働きを弱めることが報告されているが、RhoEの発現を抑制したがん細胞では、RhoAの働きが顕著に増強されていることが明らかになった。以上の結果より、RhoEはRhoAの働きを弱めることにより、子宮頸がん細胞のEMTを抑制することが示唆された。
今回の研究は、子宮頸がん細胞のEMTにおけるRhoEの役割と機能を初めて明らかにしたものであり、EMTの分子メカニズムの解明だけにとどまらず、がん細胞の浸潤や転移の研究に貢献するものと期待される。「今後、ヒトの子宮頸がんの組織サンプルを用いた解析により、がん細胞の悪性度とRhoEの発現の相関関係等を明らかにしていくことで、RhoEを標的とした新たながん治療薬の開発や新規バイオマーカーの創出につながることが期待される」と、研究グループは述べている。
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・弘前大学 プレスリリース