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【IASR速報】バロキサビル耐性インフルエンザウイルスの、ヒトからヒトへの感染状況-感染研

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2019年10月11日 PM06:15

小児と高齢者で耐性ウイルスの検出率が高い

国立感染症研究所は10月11日、バロキサビル耐性変異ウイルスのヒトからヒトへの感染伝播に関する情報を、病原微生物検出情報(IASR)の速報として、同研究所のウェブサイトに掲載した。

抗インフルエンザ薬バロキサビルは、日本、米国、香港、台湾をはじめ複数の国・地域で承認されている。日本国内では成人および12歳以上の小児ならびに12歳未満で体重10kg以上の小児を適応としているが、海外での承認は12歳以上の患者が対象で、1歳以上12歳未満の小児については臨床試験が終了したところだ。

バロキサビルの臨床試験では、投与後一部の患者から、インフルエンザウイルスのPAタンパク質の38番目のアミノ酸に変異(I38T/M/F)が検出された。この変異は、ウイルスのバロキサビル感受性低下を引き起こすバロキサビル耐性変異であることが明らかになっている。PA I38T耐性変異が検出された患者ではウイルス力価の再上昇が認められ、耐性変異を持たない感受性ウイルスが検出された患者と比べて罹病期間が延長することが報告されており、PA I38T耐性変異は症状に影響をおよぼすと考えられている。

バロキサビルの臨床試験において、12歳未満の小児では12歳以上に比べて、バロキサビル耐性変異ウイルスの出現率が高く、また、A(H3N2)亜型における耐性変異ウイルスの出現率はA(H1N1)pdm09亜型およびB型ウイルスより高いことが報告されている。国立感染症研究所と全国地方衛生研究所が共同で実施しているバロキサビル耐性変異株サーベイランスにおいても、12歳未満の小児におけるA(H3N2)亜型のバロキサビル耐性変異ウイルスの検出率が最も高く11.7%となっている。一方、12~19歳の未成年者並びに65歳以上の高齢者におけるA(H3N2)亜型の耐性変異ウイルスの検出率も10%以上を示し、20~64歳の成人患者における検出率(1.7%)と比べて高い。

第三者→兄→乳児へと耐性ウイルスが感染伝播した可能性が高い

バロキサビル耐性変異ウイルスはほとんどがバロキサビル投与後の患者から検出されているが、12歳未満の小児のうち3例、12~19歳の未成年者のうち1例、65歳以上の高齢者のうち1例の計5例についてはバロキサビル未投与の患者からA(H3N2)亜型のバロキサビル耐性変異ウイルスが検出された。このうち3例は散発例で、2例は家族内発生例だった。家族内発生例2例のうち1例について、詳細な解析により、バロキサビル耐性変異ウイルスのヒトからヒトへの感染伝播が確認された。

2019年2月に生後8か月の乳児がインフルエンザを発症し、翌日受診した医療機関で採取された検体からA(H3N2)亜型のPA I38T耐性変異ウイルス(A/神奈川/IC18141/2019)が検出された。患者は検体採取前に抗インフルエンザ薬の投与を受けておらず、バロキサビル未投与例だった。患者の発症前日には兄がインフルエンザを発症し、翌日バロキサビルの投与を受けた。兄の検体はバロキサビル投与3日後に採取され、A(H3N2)亜型のPA I38T耐性変異ウイルス(A/神奈川/IC18144/2019)が検出された。A/神奈川/IC18141/2019とA/神奈川/IC18144/2019について、次世代シークエンサーを用いた遺伝子解析を行った結果、両ウイルスの全ゲノム配列は完全に一致し、同一のウイルスであることが明らかになった。また、このPA I38T耐性変異ウイルスは、バロキサビルに対する感受性が約190倍低下していたが、ノイラミニダーゼ阻害薬(オセルタミビル、ペラミビル、ザナミビルおよびラニナミビル)に対しては感受性を保持していた。A型インフルエンザの潜伏期間の中央値は1.4日と報告されており、感染性ウイルスの排出は発症前日から検出される。したがって、バロキサビルの選択圧により兄の体内で増殖したPA I38T耐性変異ウイルスが、乳児に感染伝播した可能性は低い。さらに、PA I38T耐性変異ウイルスが検出された乳児は、家族以外との接触が限定的であったことから、兄が第三者からPA I38T耐性変異ウイルスに感染し、その後乳児に感染伝播した可能性が高いと考えられた。

最新の研究報告から、PA I38T耐性変異ウイルスはA(H1N1)pdm09およびA(H3N2)亜型ともに、in vitroおよびマウスにおいて耐性変異を持たない感受性ウイルスと同等の増殖性を維持していることが示された。PA I38耐性変異はバロキサビル投与に起因する変異であると考えられているが、日本国内のバロキサビル耐性変異株サーベイランスにおいて、PA I38耐性変異が検出されたA(H3N2)ウイルス感染患者34名のうち、5名はバロキサビルの投与を受けておらず、バロキサビル耐性変異ウイルスのヒトからヒトへの感染伝播が起きたと考えられる。

バロキサビル投与後も症状が長引く場合、耐性を疑い薬剤切替えの検討を

日本国内のバロキサビル耐性変異株サーベイランスにおいてバロキサビル耐性変異ウイルスが検出されたのは、ほとんどが12歳未満の小児で、約8割を占めている。これまでに検出されたヒトからヒトへの感染伝播例も5名中4名は12歳以下であった。小児は成人と比べてインフルエンザウイルスに対する免疫が不十分なため、ウイルスの排出量が多く、排出期間も長いことから、抗インフルエンザ薬耐性ウイルスの出現率が高いと考えられている。

バロキサビルの承認国・地域が増えたため、世界保健機関(WHO)では、Global Influenza Surveillance and Response System (GISRS)によるバロキサビル耐性変異株のグローバルサーベイランスの準備を進めている。これまでに日本国内のサーベイランスで検出されたバロキサビル耐性変異ウイルスは、ノイラミニダーゼ阻害薬に対して感受性を保持しており、また抗原性解析の結果からワクチン接種による予防効果も期待される。臨床現場においては、特に耐性変異ウイルスの検出率が高い年齢層に対してバロキサビルを投与する際には、処方前に十分な説明を行うとともに、バロキサビル投与後も症状が長引く場合、耐性変異ウイルスの出現を疑い、他の薬剤への切替えを検討する必要がある。また耐性変異ウイルスの出現によって、ウイルス力価の再上昇が起こり、周囲への感染伝播のリスクが上昇する可能性があるため、注意が必要だ。国立感染症研究所と全国地方衛生研究所では引き続き、バロキサビル耐性変異ウイルスの発生動向を監視し、国内外に向けて速やかに情報提供を行っていくとしている。

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