再発率が高い卵巣がん、維持療法が課題
アストラゼネカ株式会社は10月8日、PARP阻害剤「オラパリブ」(製品名:リムパーザ(R))についてのメディア勉強会を都内で開催。同勉強会では、がん研有明病院婦人科医長、兼、総合腫瘍科副医長の温泉川真由(ゆのかわ まゆ)氏が「初回卵巣がんの薬物療法」と題して講演を行った。
オラパリブは、相同組換え修復関連遺伝子に変異をもつがん細胞特異的に細胞死を誘導する、世界初のPARP(一本鎖切断修復酵素)阻害剤。現在、国内では「白金系抗悪性腫瘍剤感受性の再発卵巣がんにおける維持療法(2018年1月承認)」「がん化学療法歴のあるBRCA遺伝子変異陽性かつHER2陰性の手術不能または再発乳がん(2018年7月承認)」「BRCA遺伝子変異陽性の卵巣がんにおける初回化学療法後の維持療法(2019年6月承認)」の3つの効能・効果で承認されている。
卵巣がんは、年間約1万人の日本人女性が罹患しているが、初期症状に乏しいことなどから、約半数が進行がんとして発見される。従来行われてきた、TC療法(パクリタキセル+カルボプラチン)などの、卵巣がんの初回標準化学療法では、無増悪生存期間(PFS)中央値が1年(10~15か月)程度で70~80%が再発していた。再発した卵巣がんは治癒が困難であるため、初回化学療法後の維持療法は大きな課題だった。
PFS中央値、プラセボ群13.8か月に対しオラパリブ群では未到達
卵巣がんで最も多い組織型は「漿液性がん」で、およそ4割。そのうちの約半数が、BRCA1/2などの二本鎖切断修復酵素遺伝子(相同組換え修復関連遺伝子)に変異が生じている。オラパリブの効果は、こうした卵巣がんに対して期待される。すなわち、オラパリブによりPARPが阻害されると、一本鎖切断が修復されず、DNA複製の過程で二本鎖切断に至る。BRCA1/2に変異をもつ高悪性度漿液性卵巣がんでは、二本鎖切断の修復がうまく行われず、がん細胞は死に至るというメカニズムによる効果だ。
前述した2019年6月の、卵巣がんに対するオラパリブ適応拡大承認は、日本を含む国際共同第3相試験「SOLO1試験」の結果に基づくもの。同試験の対象は、白金製剤ベースの初回化学療法で完全奏効または部分奏功が維持されている、BRCA遺伝子変異陽性のステージ3/4の進行卵巣がん患者。オラパリブ群に割り付けられた患者(260名)は、オラパリブ300mgを、プラセボ群の患者(131名)は偽薬を、それぞれ1日2回、2年間内服した。
温泉川氏は、同試験の結果データを順に解説しながら、それぞれについての見解を述べた。
同試験では、中央値40か月のフォローアップの結果、主要評価項目であるPFSは、オラパリブ群がプラセボ群に比べ、有意に延長した(ハザード比:0.30 [95%信頼区間:0.23-0.41]p<0.0001)。PFS中央値は、プラセボ群が13.8か月だったのに対し、オラパリブ群では未到達だった。温泉川氏は、生存グラフ終盤に近い42か月後あたりから、オラパリブ群の生存曲線が平行になった部分に着目。その後のデータは非公開であるため、実情は不明であるが、考えられる理由として、2年の服用期間終了後も医師の判断で服用を継続している患者もいるのではないか、または服用により根絶できた患者もいるのではないか、との私見を述べた。サブグループ解析では、ステージや年代によらず、プラセボよりもオラパリブが効果的であることが示された。一方で、種々の有害事象は、プラセボよりオラパリブの方が多く生じていた。
gBRCA変異、遺伝カウンセリングの整備も重要
2019年6月のオラパリブ適応拡大承認にともない、生殖細胞系列BRCA(gBRCA)遺伝子変異を調べるコンパニオン診断システム「BRACAnalysis(TM)診断システム」(株式会社エスアールエル)も、追加承認された。同システムでは、全血から抽出したゲノムDNAを用いてgBRCA1/2遺伝子変異を検出する。この検査により、オラパリブによる治療の可否が判断できるようになった一方で、gBRCA変異陽性だった場合には、家族などの血縁関係者にも、卵巣がんを含む関連悪性腫瘍の発生リスクの可能性が判明することになり、これが彼らの精神的、社会的負担となる可能性がある。こうした課題に対し、米国では、NCCNガイドラインVer3. 2019「乳がんおよび卵巣がんの遺伝的評価」の中で、遺伝子検査前、検査後に行う遺伝カウンセリングの必要項目を挙げている。温泉川氏は、「日本でもこうしたガイドラインが作成されるだろう」との見解を述べ、がん研有明病院で現在行っている、gBRCA遺伝子検査にあたっての患者説明内容を紹介した。
アストラゼネカは、2019年7月に、日本における卵巣がんBRCA遺伝子変異保有率に関する大規模調査「Japan CHARLOTTE試験」の結果を公表。試験の対象となったステージ3患者の25.4%、ステージ4患者の20%が、gBRCA遺伝子変異陽性で、ステージ1患者の3.4%、ステージ2患者の9.9%に比べ、進行がんではgBRCA遺伝子変異の比率が高いことが判明した。温泉川氏はこうした理由から、初回進行卵巣がんのBRCA遺伝子検査の対象について「個人的には、初発から全例でBRCA遺伝子検査を実施するのが望ましいと考える」と述べ、「日本の卵巣がん患者は年間1万人。そのうちの半分が進行卵巣がんで、その20~25%にあたる1,000人~1,250人程度がgBRCA1/2遺伝子陽性と概算できる。有効性や副作用との兼ね合いはあるものの、毎年これだけの人たちが、オラパリブ服用での維持療法により、従来の治療に比べて予後が改善される可能性がある」と、締めくくった。
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