息切れ・呼吸困難・長引く咳などの難治症状につながる肺の線維化
千葉大学は10月4日、カビの暴露によって肺に起こる組織の線維化を誘導する細胞集団を同定し、これまで不明とされていた組織線維化に至るメカニズムを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学研究院の平原潔准教授、中山俊憲教授らの研究グループが、富山大学医学部第一内科の市川智巳博士、戸邉一之教授らと共同で行ったもの。研究成果は、「Nature Immunology」に掲載されている。
画像はリリースより
カビ(真菌)は、ヒトの生活環境のいたるところに生息するが、通常は健康に害を及ぼさない。しかし、病気や加齢などで免疫力が低下している場合、さまざまな症状を引き起こすことが知られている。特に肺では、カビが原因で組織の線維化が起こり、息切れ・呼吸困難・長引く咳、さらには、難治性の肺の組織繊維化といった症状につながる。これまで、真菌感染などが原因で引き起こされる組織の線維化については、体の中のさまざまな細胞が複雑に関与しているため基礎研究が進んでおらず、詳細なメカニズムは不明のままだった。
「組織常在性記憶 CD4T細胞」という新たな細胞集団を同定
研究グループは、カビによって誘導されるヒトの肺組織の線維化を解析する目的で研究を行った。まず、アスペルギルス フミガタスというカビを用いて、マウスで肺の組織線維化が起こるモデルを作成。カビを7週間暴露したマウスの肺は、正常(コントロール)のマウス肺と比べて、肺の中に炎症細胞が多数集まっており、組織の線維化が進行していた。
カビを7週間暴露したマウスの肺を詳しく解析し、繊維化のメカニズムに関わる3つのことを特定した。1つ目は、体内を移動せず3か月以上肺の組織中に住み続ける「組織常在性記憶CD4T細胞」という特殊な細胞集団を同定。2つ目は、この組織常在性記憶CD4T細胞集団は、これまで知られてきた体内を循環するT細胞(ナイーブT細胞、エフェクターメモリーT細胞)と比べて、線維化に関連する遺伝子が高発現していること。3つ目は、組織常在性記憶 CD4T細胞が「CD103」 という細胞表面マーカーで2つのサブグループにわかれることだった。
組織常在性記憶CD4T細胞のうちCD103-が肺の線維化を誘導、CD103+Tregは線維化を抑制
この中で、CD103陰性の組織常在性記憶CD4T細胞は、線維化を誘導するさまざまな炎症性サイトカインを多く産生していることがわかった。一方で、CD103 陽性の組織常在性記憶 CD4T細胞には、制御性 T細胞(Treg)のマーカー転写因子である Foxp3が高発現していることがわかった。さらに、組織常在性記憶CD4T細胞が肺の線維化に関わっているかを調べるため、特殊な化合物を用い、肺の中を組織常在性記憶CD4T細胞だけの状態にしたところ、肺の強い線維化反応が起こった。つまり、組織常在性記憶CD4T細胞が肺の線維化を誘導することが明らかになった。
最後に、CD103 陰性の組織常在性記憶 CD4T細胞と CD103 陽性の組織常在性記憶 CD4T細胞(組織常在性 Treg 細胞)がそれぞれ肺の線維化反応にどのように関わっているのかを解析。抗 CD103 抗体を使って、CD103 陽性細胞を肺内から除去した状態で、カビの暴露を行ったところ、マウス肺の線維化が著しく悪化した。つまり、CD103 陽性の「組織常在性 Treg 細胞」が CD103 陰性の「組織常在性記憶 CD4T細胞」によって誘導される線維化を抑制することが明らかになりました。
今回新たに同定した「組織常在性記憶 CD4 T 細胞」集団のうち、病原性の高い細胞集団を治療標的とすることで、難治性の肺の組織線維化において有効な治療法を確立することが期待されると研究グループは述べている。
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・千葉大学 プレスリリース