日本人の20%に感染、既存薬は副作用が課題
帯広畜産大学は10月7日、トキソプラズマ症治療薬の新規薬剤候補化合物を発見したと発表した。この研究は、同大原虫病研究センターの西川義文教授、微生物化学研究会 微生物化学研究所の二瓶浩一上級研究員、飯島正富上級研究員らの研究グループによるもの。研究成果は「The Journal of Infectious Diseases」に掲載されている。
画像はリリースより
トキソプラズマ(Toxoplasma gondii)は、世界で最も感染者数が多い原虫で、世界人口の3分の1に感染していると試算されている。日本においても約20%の国民に絶えず感染し、年間数百人の先天性疾患を引き起こしていると推測されている。ヒトでは妊婦が初感染した場合、流・死産や先天性トキソプラズマ症を引き起こすほか、エイズ患者や免疫抑制剤の投与を受けている患者にトキソプラズマ性脳炎を起こすことが知られている。
ピリメタミンやスルファジアジンはパラアミノ安息香酸および葉酸の代謝を阻害する代表的なトキソプラズマ治療薬だが、これらは一定量を超えると人体にも負に作用し、長期連用すると白血球減少や嘔吐等の副作用が出現する。少子化を打開するために出生率の上昇が叫ばれ、さらにAIDS患者が年々増加している現代日本社会において、トキソプラズマ症は国民に大きな脅威を与える原虫症であり、トキソプラズマ感染症に対する新たな治療薬の開発が急務となっている。
妊娠期感染でも治療効果、流産も予防
今回研究グループが発見した化合物MCF(Metacytofilin)は、昆虫病原糸状菌メタリジウム種の代謝産物から分離精製同定されたもの。MCFは動物細胞内に寄生しているトキソプラズマだけでなく、細胞外で生存するトキソプラズマに対しても殺滅効果を有していた。薬物動態試験の結果、腹腔内投与および経口投与後速やかにMCFが血中に移行することが確認された。マウスを用いた感染実験では、MCFの経口投与でトキソプラズマ感染に対する治療効果を確認できた。さらに、MCFは妊娠期感染でも治療効果があり、トキソプラズマ感染により引き起こされる流産を予防することもできた。
MCF処置によるトキソプラズマの遺伝子発現変動を網羅的に解析したところ、RNA分解に関与する遺伝子群の発現増加とDNA複製に関与する遺伝子群の発現減少が認められ、MCFが直接原虫の代謝に作用していることが示唆された。また、新たに合成したMCF関連化合物を用いた構造活性相関解析からMCFの立体構造が活性の発現に重要であることが明らかになった。
以上の結果より、「MCFがトキソプラズマ症さらには類縁原虫症の創薬におけるリード化合物となることが期待される」と、研究グループは述べている。
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・帯広畜産大学 プレス発表資料