X連鎖遺伝、NKAP遺伝子変異をもつ8家系10人の男性を解析
東京大学は10月4日、RNAスプライシング関連分子NKAP変異を原因とする新規希少疾患を同定したと発表した。この研究は、同大定量生命科学研究所希少疾患分子病態分野の泉幸佑客員准教授(フィラデルフィア小児病院講師)、同研究所ゲノム情報解析研究分野の白髭克彦教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「The American Journal of Human Genetics」に掲載されている。
画像はリリースより
NKAPは遺伝子の発現に関与する「RNAスプライシング」を担うとされる分子。X染色体に位置する遺伝子であり、血液免疫細胞の発生に重要な役割を果たしていることが知られていたが、NKAPの機能には不明な点が多く、生殖細胞系列での変異がどのような疾患を起こすのかは不明だった。
今回の研究では、多施設・複数コホートのエクソーム解析により、NKAP遺伝子に変異をもった8家系10人の男性を発見。X連鎖遺伝形式をとり、患者はいずれも男性であった。うち2家系は女性保因者由来、1家系は保因者の性腺モザイク由来、他は新規突然変異だった。患者はいずれも、知的障害、筋緊張低下、Marfan症候群に類似した細長い手指や胸郭変形などの骨格異常を持ち、共通した顔貌などの身体的特徴を認めた。さらに一部の患者では中心性肥満や僧帽弁逆流、心房・心室中隔欠損、大動脈拡張などの心血管系異常や泌尿器系の異常など全身の症状を認めたという。
多数の遺伝子発現異常を確認、新たな治療戦略に期待
NKAPはRNAスプライス関連因子として知られており、細胞内の遺伝子発現調節を担って いることが知られている。そこでNKAP変異により他の遺伝子発現に変動をきたすかを調べるためRNA-seqを行った結果、455遺伝子での発現増加、721遺伝子での発現減少を認め、多くの遺伝子発現に影響が及んでいた。遺伝子発現が減少している遺伝子の機能的特徴としてNotchシグナル経路など細胞外マトリックス関連の遺伝子が多く含まれていた。これら遺伝子発現異常から発達遅滞や骨格異常につながっている可能性が示唆された。
個体発生段階でのNKAP変異の影響を調べるため、研究グループは、CRISPR/Cas9によるゲノム編集を用いてゼブラフィッシュのNKAP遺伝子変異モデルを作成。ヘテロ接合体には表現型異常は認めなかったが、ホモ接合体変異体では受精後4日以内に眼の浮腫や中枢神経の壊死、脊椎の変形をきたして全例が死亡し、胚発生に必須の遺伝子であることが確認された。同変異ではmRNAが発現しており、NMD(nonsense-mediated mRNA decay)をきたさない機能喪失変異であった。患者変異と同部位のC末端部位の変異は胚発生に致死的影響を与えることが判明した。
以上の研究結果からNKAP遺伝子ミスセンス変異が、新たな神経発達異常を伴う希少疾患の原因であることが示された。今後の課題として、この希少疾患の罹患率の検討、そして臨床症状がどの程度多岐にわたるかの検討が必要と考えられる。さらに同疾患の治療法解明に向けて、NKAPの細胞内における役割を明らかにする必要がある。NKAPはRNAスプライス因子として知られており、RNAスプライシング異常はがんにおいても高頻度で認められることから、RNAスプライスをターゲットとした創薬も進んでいる。「同病態の詳細がより明らかになると新たな治療戦略につながる可能性がある」と、研究グループは述べている。
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・東京大学 定量生命科学研究所 プレスリリース