既存の免疫チェックポイント阻害剤に勝る新治療の開発へ
九州大学は10月3日、PTPN3(プロテインチロシンフォスファターゼノンレセプタータイプ3)阻害剤が、低分子化合物として開発できる、世界初の非抗体型免疫チェックポイント阻害剤となる可能性を示唆する研究結果を発表した。この研究は、同大大学院医学研究院の大西秀哉准教授および医学系学府博士課程4年の藤村晶子大学院生の研究によるもの。研究成果は、「Cancer Immunology Immunotherapy」にてオンライン公開された。
画像はリリースより
抗PD-1抗体(ニボルマブ)等の免疫チェックポイント阻害剤は近年、その著効例が認められ、注目されるようになってきた。しかし、既存の免疫チェックポイント阻害剤は抗体薬のみで薬価が高く、効果は限定的で、重篤な有害事象も報告されており、既存の薬剤と併用する治療の可能性を含め、新しい分子を標的とした免疫治療開発は継続の必要がある。
PTPN3抑制の活性リンパ球投与で、腫瘍体積の増加抑制
研究グループは、活性化リンパ球において、チロシン脱リン酸化酵素であるPTPN3の発現が活性化前に比べて増加することに着目。活性化リンパ球のPTPN3発現を抑制すると、チロシンキナーゼの脱リン酸化が抑制されることで、チロシンキナーゼが活性化し、リンパ球の増殖、遊走、がん細胞傷害活性が亢進すること、つまり、活性化リンパ球で発現が亢進するPTPN3が免疫チェックポイントとして作用することが試験管を用いた実験でわかった。
さらに、マウスに患者由来のがん細胞を接種し、同じ患者から採取した活性化リンパ球を投与して治療を行う実験を行ったところ、PTPN3を抑制した活性化リンパ球を投与したマウスは、PTPN3を抑制していない活性化リンパ球を投与したマウスに比べ、がんのサイズが有意に小さいという結果となった。また、活性化前リンパ球のPTPN3を抑制してもリンパ球機能に影響がないことを確認した。これらのことから、PTPN3抑制治療に伴う有害事象(自己免疫反応)が起こりにくいことが示唆された。
今回の研究は、PTPN3阻害剤が、低分子化合物として開発できる世界初の非抗体型免疫チェックポイント阻害剤となる可能性を示唆するもの。「この研究成果を基に、新規免疫チェックポイント阻害薬開発へ向けて、さらなる研究を続けていきたい」と、研究者は述べている。
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