従来の検査法は、採血から感受性結果が出るまでに3日以上必要
富山大学は10月3日、敗血症患者に有効な抗菌薬の迅速選択が可能な新たな技術として、血液培養陽性検体から原因菌以外のATP(アデノシン三リン酸)を消去する簡便な前処理技術、高速なATP発光計測技術、および機械学習を用いた感受性判定(=有効な抗菌薬判定)技術を開発したと発表した。この研究は、同大学大学院医学薬学研究部の仁井見英樹准教授の研究グループと、株式会社日立製作所によるもの。研究成果は、米国ワシントンで開催された「IDWeek 2019」で発表され、「Scientific Reports」に掲載されている。
画像はリリースより
敗血症患者の原因菌に有効な抗菌薬を調べるための従来の検査法は、血液培養、 分離培養、感受性検査と3回の培養工程を経るため、採血から感受性結果が出るまでに3日以上かかる。一方、敗血症は重症化しやすく、数時間の治療の遅れが予後や救命率を左右しかねないが、検査結果が出るまでは医師の経験に基づいて抗菌薬が処方されているのが現状だ。こうした現状では、治療効果の無い抗菌薬を投与するリスクや、過剰な抗菌薬の投与による新たな耐性菌発生のリスクがあるため、敗血症に対し適切な抗菌薬を早期に選択できるよう、より迅速な薬剤感受性検査の技術が求められている。
必要日数を1日程度に短縮、患者の救命と薬剤耐性菌の蔓延防止へ
そこで富山大学と日立は、有効な抗菌薬を迅速に選択できる新たな技術として、菌の分離培養工程を省略できる前処理技術、高速なATP発光計測を実現する装置、および機械学習を用いた薬剤感受性判定技術を開発。富山大学では、検査開始直後からのATP消去試薬の投入と遠心分離による簡便な前処理で、薬剤感受性検査の妨げとなる血液由来のATPを大幅に低減し、分離培養工程を省略した迅速な薬剤感受性検査を実施可能とした。日立ではATP発光計測技術を用いた新たな薬剤感受性検査法を開発する目的で、多くの抗菌薬に対応する高速なATP発光計測装置を試作。同装置で測定した各抗菌薬に対する細菌のATP発光量の変化を、機械学習を用いて判定することで、従来の検査法と同等の精度で迅速な薬剤感受性検査が可能となった。
実際に富山大学で、敗血症患者の血液検体を用いて同検査法を検証したところ、血液培養陽性後から6時間という迅速さで薬剤感受性検査結果が得られたという。また、日立は63種類の大腸菌株を用いてATP発光計測技術と機械学習による迅速な薬剤感受性検査を実施。その結果、抗菌薬12種類において、従来の薬剤感受性検査と比較して2時間で90%以上、6時間で97.9%が一致することを確認したという。これらの結果は、採血から薬剤感受性検査の結果が出るまでの日数を従来の3日以上から1日程度に迅速化できることを示している。
今回開発した技術は、敗血症に対し適切な抗菌薬の投与を早期に開始できるため、救命率の向上につながるほか、入院日数や投薬期間の短縮による医療費の抑制、および抗菌薬の乱用による薬剤耐性菌の蔓延防止が期待される。今後、富山大学と日立は、対象菌種および対象抗菌薬を拡大するとともに、複数施設と連携し、臨床検体を用いて、その有用性の検証を進めることで、人々のQOL向上に貢献していきたいとしている。
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