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放射線による精巣への影響、用量よりも「当て方」で軽減の可能性-横浜市大ら

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2019年10月04日 AM11:30

従来の「用量(線量)-反応モデル」に従わない現象の原因究明

横浜市立大学は10月2日、放射光X線マイクロビーム技術とマウス精巣器官培養法を組み合わせて、空間的に不均一に放射線を当てた場合には組織機能の回復が生じ、放射線量から単純に予測されるよりも影響が軽減されること、さらにそのメカニズムとして放射線の直接当たらなかった細胞の移動が起きていることを実験的に証明したと発表した。この研究は、同大小川毅彦教授、量子科学技術研究開発機構量子生命科学領域の神長輝一博士研究員、横谷明徳量子細胞システム研究グループリーダー、英クイーンズ大学ベルファストの福永久典博士課程大学院生(現:沖縄徳洲会湘南鎌倉総合病院放射線科)、Kevin M. Prise教授らが、高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所の宇佐美徳子講師らと共に行ったもの。研究成果は「Scientific Reports」に掲載されている。

放射線が生体に与えるエネルギーの量の増加に応じてその影響も増大するという、従来の「用量(放射線の場合は線量)—反応モデル」に従わない現象が見出されている。この理由として、すべての細胞が一様にエネルギーを受けているのではなく、一部の細胞のみが偏ってエネルギーを受けているため、生き残った細胞が死んだ細胞を代償する「組織代償効果」が起きている可能性がある。今回、研究グループは、放射光X線マイクロビーム装置を利用した微細なストライプ状の照射と、細胞の生死と分化・成熟の様子を総合的に評価することができる実験系であるマウス精巣の器官培養法を組み合わせることで、不均一なX線照射が精子形成能に与える影響を評価した。

ストライプ状にX線照射されたマウス精巣で組織修復が起こった?


画像はリリースより

研究グループは、放射光X線マイクロビーム装置を利用し、照射部位および非照射部位におけるその後の生物学的変化をリアルタイムに解析するという実験手法を開発してきた。この手法と、「精巣器官培養法」によるマウス精子形成系、という技術を組み合わせ実験が行われた。このマウス精子形成系では、精子形成過程の途上で発現するアクロシン(Acr)というタンパク質が緑色蛍光タンパク質(Green Fluorescence Protein、以下GFP)を融合した状態で発現する。蛍光顕微鏡下で緑色蛍光を観察することで、精子形成に至る細胞の成熟の過程を生きた状態でリアルタイムに解析できるという。

7日齢の雄マウスから精巣を摘出し、1m㎥程度の大きさのブロックに切り分けた後、1.5%アガロースゲル上で培養。翌日にこの試料に対して5.35keV放射光X線マイクロビームを照射した。その際、マイクロビーム照射範囲をストライプ状にして、精巣組織の体積の約50%に集中して5GyのX線を照射した場合(組織全体で平均すると2.5Gy相当)と、2.5GyのX線を全体に均一に照射した場合を比較検討した。GFP発現の変化を解析したところ、ストライプ状に照射した場合は、GFPの発現が非照射サンプルと同様(=精子形成能有り)であったのに対し、全体に均一に照射した場合にはGFPの発現をほとんど検出できず、精子形成能が失われたことが考えられる。

この実験から、線量分布の差異により「組織代償効果」が生じ、器官としての機能が温存されるという現象が、実際の生きた状態の生体試料を用いて初めて可視化された。また、ストライプ状に照射することで、X線が当たっている部位においても次第に緑色蛍光が現れてきた事実から、放射線が照射されていない部分(正常部分)にある精子形成細胞が、精細管を介して放射線が照射された部分(損傷部分)に移動して、精巣組織全体の精子形成能を修復・保全している可能性を見出した。これは、組織代償効果のメカニズムとして、精子形成細胞の移動が起こることにより組織修復が起こる可能性を示唆している。

有害事象発生リスクを低減する、新しい放射線治療法の開発に期待

今回の研究は、不均一照射された精巣で組織代償効果による機能維持が起こることを初めて見出したもの。今後、さまざまな条件での不均一照射の影響を実験的に検証することにより、放射線生物学的影響の理解と予測がさらに進展すると考えられる。「将来的には、放射線治療における有害事象の発生リスクをさらに低減する、新しい放射線治療法の開発につながると期待される」と、研究グループは述べている。

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